第18話

おやっと眉をひそめた若葉はティラノザウルスをまじまじと見つめる。きっとどこかのゲームセンターでこしらえた物だろう。

特別なタグもなく、縫製も雑な、ありきたりな物だった。


若葉はタカヒロの顔をティラノザウルスに重ねて、キスをした。


優しい人間は好き。怖い人間は嫌い。


そんな当たり前の感情に若葉はひとりで納得した


そしてもう一度キーホルダーを強く握った。やっぱり芯の部分が異様に硬い。


ソファーから体を起こした若葉は、ティラノザウルスを引き裂こうか躊躇った。


この何の変哲もないキーホルダーがタカヒロとの唯一の思い出。


それでも好奇心に負けて、若葉は思いきってティランザウルスの背中を引き裂いた。


一見、雑に見えた縫製は意外としっかりしていて、なかなかティラノザウルスの背中が割れない。


小さな個室、静かな環境の中、若葉はひっそりとうめきながら両手に力をこめた。



メリメリ、と異様な音が聞こえてくる。



それが何故だが生肉を引き裂いているような音に聞こえて、若葉の背中に冷たさが走った。

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