第9話

タカヒロの手のひらに納まっていたのは小さな恐竜のぬいぐるみのキーホルダー。


水商売の女性へのプレゼントにしては随分チープなそれに、若葉の背後に居た従業員が失笑した。



「ありがとう」



けれども若葉は心の底から喜んで受け取った。


何も知らない子供じゃない。客から現金や高級時計をプレゼントされた事だってある。


だけど若葉は恐竜のキーホルダーに新鮮味と忘れかけていた無垢な気持ちが呼び覚まされた気がした。


恐竜のキーホルダーを目の高さにかざした若葉にタカヒロは静かに口角を上げた。



「ティラノザウルスだから」


「うん」


「安物だけど。気持ちは本物」


「ううん。嬉しいよ」



嘘ではない。

どんな高価な物よりそこら辺で売ってそうなキーホルダーの方が何倍も嬉しい。


そんな感情が上手く伝えられないのが悲しかった。



「じゃあ頑張って」


「ありがとう。タカさんの為に踊るね」


「嬉しいね」



タカヒロは従業員に連れられて所定の位置へと歩き出した若葉に手をそよがした。



「今日だけでもそうしてくれ」

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