第5話

『それでは皆さまお待ちかねのダンスタイムです!今宵も可愛いキャスト達が妖艶な踊りを披露します!くねる腰つきをを堪能した後は是非彼女達に心付けを!』



心付けとはチップの事だ。


こんな堂々と、しかも踊る本人じゃなくて指示する男がねだるなんて、客達は興醒めしたような苦笑を漏らすしかなかった。



「じゃあ行くね」



若葉は対面に座っていた客に席を空ける挨拶の乾杯をすると、腰を上げた。



「待って」



もうほとんど立ち上がりかけていた若葉の剥き出しの腕を客が捕らえる。


基本的にボディタッチが禁止のルール。


それを入店前に嫌というほど聞かされたのか、客は我に帰ると急いで若葉の腕を離した。



「ごめん」


「ううん。大丈夫。どうしたの?」


「いや、なんて言うか」



客は苦く笑いながら黒髪をかいた。



「行って欲しくなかったから」

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