第6話
「……良かった」
方法は予定通りじゃなかったけど私は見知らぬ男の人が呟いたたった一言で『自由』を得られた気がした。
そうやってホッとした瞬間に感じるタワーマンションの高さっていう恐怖。
顔は後ろを見てたけどつま先はまだ外に向いていて、高さを実感したからか怖くって足が竦んだ。
「で、どうする?飛ぶ?飛ばない?」
そんな私の情けない変心を見透かしたかのように、彼がクスクス笑いながら近付いてくる。
「……今日は止めておく」
「そっか。良かったよ。さすがに自殺した人間をみすみす見過ごした冷たい奴って言われたくないし」
そう言いながら彼は私の足元でピタリと止まった。
上目遣いに見上げてくる瞳が優しさを湛えてる。
吹き込む風に遊ぶ茶色い髪が柔らかそうで触れたくなる。
白いTシャツに、太めのチノパン。
ビーチサンダルを履いてる足元を見れば、ここの住人かもしれない。
それくらいラフでナチュラルな彼はふっと目を細めると私に手を伸ばしてきた。
その手は固まった私の手に到達する前に、破れたスカートに寄り道した。
「…破れてるじゃん……」
彼の指がスカートの裾を抓んで切り裂かれた部分をひらひらかざす。
別に足を触られてる訳でもないのに、その仕草に恥ずかしくなった。
俯き加減に眉をしかめる私を彼は再び見上げてきて。
「おいで?」
伸ばした手で私の指先をつついてくる。
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