第5話

……さっきまであんなにも感動した空の青さが、今は残念なくらい遠くに感じる。



それもこれもきっと現実に引き戻してきた声の所為だ……。



私は後ろに誰かの気配を感じて急いで振り返った。


風に舞う髪が邪魔で目を凝らしてみればこげ茶に覆われた視界の中に男の人が見えた。



ここに来た時は誰も居ないと思ってた。



だけど私の後ろに男の人が確かに居る。



私を見上げる瞳が愉しげに笑ってて、格好は大人なのに雰囲気が子供みたいな人がいた。



その表情に毒気を抜かれて体が脱力していく。


緊張感に支配されてた指先が、じんわり温かくなっていく。



「飛べるかな?」



別に説得とかして欲しいんじゃなくて、私の可能性を聞きたかった。



「……ああ。飛べるさ。その気になれば誰だって自由になれる」



そしたら彼は私が欲しい答えをそのままくれた。



『自由』



果てしなく壮大で、果てしなく魅力的なその自由。


私はそれを飛ぶ事で得ようとしたけど、その前に彼が言葉としてくれたから、もうどうでもよくなった。

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