第6話

「ジャドールよ」


「はぁ?」


「知らないの?ディオールの香水。CMやってるじゃん」


「んなもんしらねぇな」



晋太郎は構わずキャバ嬢の首に噛み付くように深く顔を寄せる。まるで花畑に体を埋めたみたいに嗅覚が騒ぐ。



「でもこの匂いは好きだな」



それだけでは飽き足らず、晋太郎は女の腰を抱き寄せた。

店内の雰囲気が張り詰めた気がするけど、敢えて無視する。


俺の前世は蜂だな。


晋太郎は照明でかげった顔で冷笑した。



「そう言えば」



キャバクラ嬢は耐えかねたのか、それとも焦らしたいのか、晋太郎の腕からスルリと抜けると汗を掻いたグラスを拭った。



「歌舞伎町に新しいお店出来たの知ってる?」


「いちいち気にするほど、俺はキャバクラに入れ込んじゃねぇよ」


「あれ?意外」


「なんだよ?じゃあ俺はその新しく出来たキャバクラの前で開店待ちで並んでた方が似合ってんのかよ?」


「似合わないけどシンらしいよ」



キャバ嬢はクスクス笑うと、フレンチネイルが施された爪を見せつけながら煙草を抓んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る