第6話

「あっ!カイさぁ!この子泊めてあげたらどうか?!」


「はあ?!」



でもそんな和やかな空気にもなれぬ事をオバアが口走るものだから、朱里は目をひん剥きながら顔を上げた。


そして同じような表情をした男を見た。



「何の義理で?!」


「あんたペンションやってるって聞いたよ?」


「ありゃ、村長の圧力だ。シーズン中はホテルだけじゃ足りないからあぶれた客を俺の所へ入れて欲しいって……」



男はそこで言葉を切ると「クソっ」っと天井を仰いだ。



「オッケーしてないし!なのにアイツ……言いふらしてんのかよ?」


「オバアはそう聞いた。村中の人も『もし素泊まり出来る場所を聞かれたらカイの家に案内を』って言われてる」


「待て待て!俺は何も!」


「よかったさぁ。あんた。泊まる場所が出来た」



戸惑う男を尻目に満足げに頷くオバアに、朱里も困惑した。



「いいです!私、あまりお金持ってないから!」


「いいさ。今日は特別にお代は要らない」


「オバア。金を取るのを決めるのは俺だぞ?」


「カイさぁもそんな事言わない。どうせ家もおっきいんだ。人っ子一人泊めたっていいだろう?」


「嫌だな。絶対に」


「どうして?」


「俺のペースが乱れる。それが堪らなく嫌だ」

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