第3話
友人の愉楽の跡を示す濡れた水着の入ったビニールバックも、背負った白い麻地のお尻まで隠れるほど下がったリュックも、ロイヤルブルーのキャミワンピから剥き出しになった肩も。
容赦なく雨が叩きつけてきて、もう濡れるとか風邪を引くとかそんな物は関係無かった。
何故あの友人達は言わなかったのか?
まだ私が居ると。
友人が戻ってくるからもう少し待ってくれと誰かに断って、帰りを待ってくれても良かった物を。
遥か彼方、雨煙に霞む白い船体の豆粒ほどの影を見ながら、自分の頬に雨だけじゃなくて涙が伝っているのに気付いた。
発狂したかのように大声で呼んでもそれは断末魔の様に無情に響くだけで、自分だけがポツンと立つ桟橋に恐ろしい程の寂しさを感じた。
何とかしなきゃ、と考えて船の待合室に入ってみたものの、そこに座っていた地元のオバアから聞いたのは更に残酷な現実だった。
「連絡船はもう来ないさ。何たってここは離島も離島、日本の外れだからね。この時間からの観光客なんていやしないさ」
「……」
「海辺の前に立つホテルも今日はいっぱいだでさ。さっきホテルの人がてんてこ舞いにそう言ってたからね」
「……」
「あんた、乗り遅れたのかい?そりゃ、可哀想に。よかったらうちに泊まるかい?こんなオバアしか居らんボロ家だけど」
「……大丈夫です」
それだけをやっと振り絞ると、朱里はうなだれたように頭を抱えた。
この島一番のさっき遊んだビーチの前に、確かに三階建ての小さなホテルがあった。
ホテルと言う言葉を当てはめるにはあまりにも小さな物だったけど、そこが空いていれば……と朱里も一縷の望みを掛けていた。
だけどそんな物事上手くはいかないらしい。
この寂しそうな老婆の世話になる事も脳裏を掠めたけど、さすがに突然人様の家に上がり込むのは気が引けるし、都会育ちの朱里自身そんな度胸は無かった。
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