第8話

切ない瞳でビルの隙間に見える小さな夜空を見上げたら、携帯からこれでもかって言う叫び声が聞こえてきた。


あたしはもう聞く気にもならなくって携帯を耳から離すと、そのまま掌の中で畳んだ。



……失恋しちゃった。



寂しくないけど。



そりゃ少し言い過ぎたかなって反省はするけど、付き合って二カ月目にしてあたしへの依存を醸し出す彼氏に飽き飽きもした。


だってあたしは彼の他にやらなきゃいけない事がたくさんある。

事あるごとに彼を優先して、全身全霊、一分たりとも手を抜かず愛情を与えるなんて無理だ。


神様、仏様、女神さま。


どうか次は良い恋が出来ますように。


……って胸の前で十字を切って両手を握り合わせたわあたしに聞こえてきた、電車の音じゃない妙な音。



それは甲高くキィーと鳴って、まるで隙間風に錆びついたドアが開いた音の様に聞こえた。


ハッとして背後を振り返っても、非常階段のドアは開いていない。

まさかお化けか、と心霊現象が給料日前の通帳残高よりも怖いあたしは、顔を引きつらせた。



その途端、不快な音は迫り来るように絶え間なく鳴り響いた。



キィーだのキュンだのとにかく正体不明な音にますます恐怖を感じたあたしは、挙動不審になりながら辺りを見回してお化けを探した。



「あっ」



でも変な音の正体はお化けじゃなかった。

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