第4話

「もしもし?」



社会的立場から見れば、独り立ちしている私の方が彼より若干優位になる。


本当は一つ上の彼氏に少し威厳のある態度を取れるのは、あたしが就職活動を頑張ったからだ。



『ああ、ナツ?今どこ?』


「ん?仕事終わって会社の人と飲んでるよ?」


『じゃあ……』


「あれ?もしもし聞こえない。もしもーし?」



電波が悪いのか彼氏の声が途切れ途切れになる。

あたしは思い切ってドアを開けると非常階段に下り立った。


隣りのビルの外壁がこれでもかと言うくらい傍にあって、凄く薄暗い非常階段。


時折“ガタタン、ガタタン”って聞こえてくるのは、電車の音。


駅前だからホームの陽気な発車ベルの音がうるさいくらいに聞こえてきた。



「もしもし?」


『……し?もしもし?』


「ああ、ごめん。電波悪かったみたい」



外は湿度が高くてムワっとしている。


先週の土曜日に買ったばかりのシャツに汗染み付いちゃう。

それより何よりベージュのスカート汚さないように気を付けなくっちゃ。



『は?なに?もしかして男も居るの?』



なんて、のんびり考えていたあたしは急に口調を変えた彼氏に瞬間的に呆気にとられた。

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