第5話 魔王討伐!
「魔王城って確か、空にあるんだよな?」
「そうです!あの辺に浮いてるのが魔王城です」
彼女が指さした先には、何かが浮いていた。日本のお城のシルエット。屋根には金色の棘が2つ。安っぽい和風感を醸し出している。
「和風だぁ」
「王様の謁見時に雑に創ったからですよ!」
「あの時か……」
確かに、日本風の城ならまだマシに創れるかもとか思っちゃったよな。
「必要だと思ったら勝手に生えてくることもあるので、お気をつけを!」
「気をつけろっていっても、どうすればいいんだ?」
「心を無にするのです!こうやって目を閉じて呼吸に意識を集中させて……」
「無に……って、待て待て、瞑想よりも魔王討伐に行こう」
創造主としてのスキルを上げてる間に、夢から覚めてしまう。どうせ夢なら美味しいところだけを全力で味わいたいものだ。彼女は大きな目をぱっちりと開ければ嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあ張り切って魔王討伐に行きましょう!」
彼女は再び拳を突き上げるポーズをした。どこまでも明るくて、こっちまでなんだか明るくなってくる。だからこそ、少し前にみた、彼女の寂しそうな表情が胸を締め付けた。
「オー!って言ってもあそこまでどうやっていけばいいんだ?」
そう足を踏み出した瞬間、視界ががらりとかわった。比喩ではない。雑な街並みだった景色が、一瞬にして、青空の元聳え立つ城に変わっていたのだった。禍々しい雰囲気もなければ、毒の沼とか、枯れた土地とかもない。城とそこに続く少しの道だけがあるだけだった。
「瞬間移動ですね!」
呆気に取られて何もコメントが出てこなかった。せめて効果音とか、それっぽい光とか放って欲しかった。贅沢な文句を心の中でこぼしつつ、城へと入り、上へと登っていく。
「けっけっけ!人間がきたぞ!イキョー様の元へはかせん!」
「よくいるゴブリン的なキャラだ!」
「そうですね!よくいるゴブリン的なキャラなら、ふにゃ剣で何とかなりますよ」
背中から取り出そうとするも、腕の長さの問題で上手く引き抜けなかった。恥ずかしさに、顔に熱が集まるのがわかる。一度ベルトを外し腰元に携え直せば、ゆっくりと引き抜く。
「う、うわぁ!!そ、そのつ……」
ゴブリン的なキャラ達はバタバタと倒れていく。
「すごいです!流石創造主!敵を丸々撃破です!」
「くそ……まさか伝説のふにゃふにゃ剣があるだなんて」
「あの剣は俺のお父様の、お爺様の、兄弟の、奥さんの子供の友達が、カザーンのマグマに落としたはずでは」
「そこまで行くと他人なのでは?」
「そしてそのお友達が俺だ!」
「どうも……」
敵キャラ達はすぅと灰になった。もちろん爽快感はなかった。
※
思ってたんと違う感は連続する。魔王の部下達は一瞬で倒せちゃうし、城は和風。そのチグハグ感は物珍しさはあるけどさ。やっぱり、中世ヨーロッパ風な城で、禍々しい雰囲気で、ちょっとビビりながら探索したいよな。……多分今の雑な想像でこの世界のどっかに、それっぽいとこ出来たのだろう。が、気にしないでおこう。
城のいちばん高い所へと登れば、大柄の男が外を眺めていた。こちらに気がつけばゆっくりと身体を向ける。黒いマントに大きな牛のような角、濃い灰色の肌に、真っ赤な瞳。口元には立派な髭が生えており、背丈は3mくらいありそうだ。
「来たか勇者よ、セーブするのなら今のうちだぞ」
「メタいな」
「雑に創るからですよ」
「というか、セーブ出来るの?」
「もちろん!」
彼女の目の前にホログラムっぽいものが現れた。黒字に白いドット文字で、もちもの、どうぐ、セーブ、設定……とメニュー画面が現れ、カーソルがセーブを選択した。
「出来ましたよー!」
「あ、ああ。ありがとう」
一体このセーブがどんな風に役に立つのか分からないが、これできっと安心だ。自分でも何思っているのか分からないが、ふにゃ剣を取り出し、適当に構える。
「おらぁ!覚悟しろ!魔王!」
俺はふにゃ剣を魔王に振り下ろした。すると剣はピタリと止まった。
「は?」
「ふはははは!ふにゃふにゃ剣などとうの昔に克服したわ!」
「貴方いまさっき生まれたばっかですよね?!てか、なんで魔王だけやけに設定作られてるの?」
デザインのディテールの細さがほかとは段違いだ。村人を思い出してみろ、よく見かける死んだ魚の目をしたモブ顔しかいなかった。それに対し魔王はなんだ。肌の色、角、衣装、更には声までちょっと作り込まれている感がある。
「ハジメ君のむかーし昔に創った最強の敵とかから引っ張り出してきたのかもですね? 」
「なるほど?!」
一度後ろに下がり、間合いを取った。するとふにゃ剣に謎のビームが当てられ、灰となって消えていった。
「ふにゃ剣!!」
俺の悲鳴と魔王の高笑いがその場を支配した。大ピンチだ。今スウェットだし、カバンの中は回復薬しかない。魔王のビンタが俺に炸裂した。俺は凄まじい勢いで吹っ飛ばされ壁に激突した。とんでもなく痛いし、呼吸が上手くできない。
「ハジメ君!」
彼女はすぐに駆け寄ってきた。急いで俺のカバンから回復薬を取り出せば口にねじ込んできた。だが、蓋が空いていないので全く飲めない。
魔王は緩慢な足取りでこちらへと向かってくる。
「このイキョーの一撃で、海の藻屑となれ!女!」
「なぜ海?!」
咄嗟に出たのがツッコミだなんて呆れるそうだ最強の盾とか創ろう!そう手をコネコネさせれば眩い光を放ち、盾が現れた。だが魔王と彼女の間に割り込むには遅すぎたのだ。魔王の攻撃は彼女を捕える。……そういえば、まだ君の名前も聞いていなかった。
魔王の振り上げた腕はピタリと止まった。魔王の腕を白く細い腕が掴んでいる。
「ハジメ君に……酷いことするなんて……!」
彼女の声は震えていた。恐怖にでは無い、怒りにだ。凄まじい衝撃音、魔王が地面に叩きつけられたのだ。あまりのことに俺は言葉を失った。えっ、彼女が、片腕で、魔王を?俺が困惑するさなか、彼女の周りになにか凄まじいエネルギーが集まってきた。魔王が起き上がると彼の足元に魔法陣が張り巡らされてた。
「私!魔王さん大嫌いです!」
彼女の一言と共に地面から光の柱が立ち上る。
「な、なんだ!こ、これは!」
魔王の苦しそうな声が聞こえてきた。攻撃はそれだけにとどまらず、光は炎に包まれた。追い打ちをかけるように、落雷が魔王を貫き、炎ごと氷漬けにされ、木っ端微塵に砕け散り、謎に発生したブラックホールに吸い込まれ消えていった。情報量の多さに、唖然とした。
彼女はこちらを振り返える。その瞳には光はなく、頬には一筋の涙が流れていた。
「大丈夫……?」
俺の声に気がつけば、ぱっちりと瞬きをし瞳に光が戻った。そして少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、そっぽを向いた。
「……倒しちゃいました」
彼女がどういう感情なのか分からず言葉に迷った。
「うん、お、おめでとう」
素直に思いついた言葉を口にすれば、彼女ははにかみながら「ありがとうございます…」と言ったのだった。
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