第4話 勇者よ!
お城の中は関から奥の玉座までレッドカーペットが続いているだけの場所だった。玉座の奥には宝箱が置いてあり、魔王倒したら重要なアイテムがゲットできるんだろうと容易に想像がつく。日本風の城ならもうちょいましに創れる気がする、とぼんやり思った。王様の元へ向かおうと1歩踏み出したとき、俺は自分の格好が不安になった。何しろスエットだ。
「この格好で大丈夫かな」
「大丈夫ですよ!着てますもん!」
全くもってフォローになっていないが、お金も持っていない。店に行っても何も買えないだろう。いや待てよ。
「鎧とかも、創造すれば良いのか!」
名案じゃないかと彼女を見れば、ものすっごく微妙な顔をしていた。
「……やめた方がいいと、思います」
「え、なんで」
彼女はすごく、申し訳なさそうに口を開く。
「創造主様、ファッションセンス。壊滅的ですよね……?」
その一言に何も返せなかった。無言が続く中、俺の視界が何かに覆われた。それを手に取れば銀色の全身タイツだった。中途半端に創造した鎧が落ちてきたのだろう。俺はそれを丸めて城の端にぶん投げ、王様の元へと向かった。
玉座に腰掛ける王様は、赤いマントを羽織っており、襟元には白いふさふさがついている。茶色い立派なお髭に、優しそうなお顔。頭に乗っている王冠も、赤い布と金で作られている。彼は俺と彼女に気がつけば両手を天にかざした。
「おぉ!勇者よ!よくぞ参った!魔王サ・イキョーが世界征服を目論んでおる。その野望を阻止するのだ!」
名前の雑さはもう突っ込まない。王様から懐から小さな布袋を取り出せば、俺に手渡した。
「軍資金!1000へけだ!大切に使うが良い!」
「王様!ありがとうございます!」
「へけ……何故、へけ」
俺も王様にお礼を言えばお城を後にした。
「俺の職業って勇者なのか」
「いえ、君の職業は創造主ですよ?」
「さっき王様は勇者って言ってなかった?」
「魔王を倒すぞ!って王様の元に向かいましたよね。王様からすれば君はもう立派な勇者なんですよ」
少し納得は行かないが、するりと流すことにした。道具屋の看板を見つけ、足を踏み入れる。「へいらっしゃい!」という威勢の良い声が聞こえる。
「回復アイテムだけでいいかな」
「装備はいいんですか?」
彼女の言葉に、店に並んでいる装備に目をやった。鉄板を黒い服に貼り付けたみたいな装備が飾られている。そしてその横にはスーツがあり、値段は5万へけと手持ちでは足りない。値札をよく見ると、防御力+10とステータスが書いてある。
「動きずらそうだし……」
「それも、そうですね!気慣れた服が1番です!」
結局、1番効果の高い回復薬を9本購入した。HPが100程回復するらしい。ペットボトルの中に水色の液体が入っており、内容量は200ml程だ。買った後に思った。無茶苦茶嵩張る。
「どうやって持てばいいんだこれ」
「創造主様!無限に入る袋を創っちゃいましょう」
「そうだな」
無限に入る、カバン。両手塞がらない。すると、少しだけ肩が重くなる。気がつけば俺は、いつも使っている斜めがけのボディバッグを身につけていた。チャックを開けて中へと回復薬を入れる。重くなることもなければ、満杯になることも無い。中を覗いてみると、そこには宇宙のような空間が広がっていた。そしてその宇宙を漂う回復薬がとんでもなく場違いだった。
「誰か開発してくれないかな」
回復薬を詰め込み、チャックを占める。
「創ったじゃないですか」
「いや、リアルでの話」
俺がそういえば彼女は少しだけ寂しそうな顔をした。
「ごめん」
水を刺すような発言だったと、素直に謝るも、その表情は晴れることはなかった。こちらをじっと見つめるその瞳はとても綺麗なのだが、その奥深くに薄暗い何かが潜んでいる気がした。少しして、彼女は人懐っこい笑顔を浮かべた。
「……はい!そうです!心ゆくまで全力で楽しみましょう!人生楽しんだもん勝ちです!」
「人生って……まぁ、そうかもな」
急に話が大きくなった気はしたが、彼女が笑顔を取り戻したし一先ずはいいんだと、思う。ちょっとした不安を抱えつつ、俺は道具屋を後にする。
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