第4話 襲撃

 街中に悲鳴が響き、道にたむろしていた人々は我先にと一目散に逃げていく。 


「たんなる火事……じゃないよな? ……どうする?」


 遠くに上がる火の手を見ながら、了哉はエイラに判断を仰ぐ。


「おそらく、フェルザー配下の賊の襲撃です。彼らは違法な方法で魔力を手にした、偽物の魔術師です」

「フェルザー?」

「説明は後、偽物の魔術師といっても私の魔力ではあの賊達に勝てません。私たちも逃げましょう」


 エイラは了哉の手を引き、炎から遠ざかろうと街道を駆ける。しかし、その前方でも爆炎が上がる。


「あっちでも爆発が……」

「挟まれたようです……こっちの路地裏に」


 二人が路地裏に向かおうとしたその時、空から複数の人影が飛来したかと思うと、円陣を組むように了哉とエイラを取り囲む。


 彼らは赤いフードを身体に纏い、顔には銀色の髑髏の仮面をかぶっていた。まるで赤い死神のように見える。おそらく彼らがエイラが賊と呼ぶ、この爆発の犯人達だろう。


「貴様、魔女の手先だな?」

 

 彼らのうち一人が野太い声でエイラに問う。


「……だったらどうします」


 エイラは短剣を取り出し、構える。


「ふっ、魔女に組するものはすべて殺すさ」

「それはフェルザーの命令ですか?」

「奴は関係ねぇ。俺たちは自由な赤の軍団よ」

 

 仮面の賊達はじりじりと距離を詰めてくる。


 「出来るものなら、やってみなさい!」

 

 しかし、強がって見せたものの、隣にいる了哉には彼女の身体が震えているのがわかった。

 了哉はとっさに彼女を庇うように前に一歩出る。


「了哉さん……」 

「武芸の心得くらいはある。俺が戦う」


 創破鬼伝流の稽古をしていても、この人数を相手にするのは無理がある……そう思いつつも、頭の中でどう戦うべきかを瞬時に思考する。 


 賊の一人が了哉に視線を向け、嘲笑う。


「ふっ、女の前で威勢がいいな、小僧。しかし、奇妙な服を着てやがるな……そうか、噂に聞く異世界人か。ならお前も道連れだ」


「……あんたらは何者だ?」

「俺たちは魔力を手にした選ばれた存在だ……」

「何が選ばれた存在ですか……違法な魔力で暴走しているだけでしょう!」

「てめえみたいな犬畜生にはわからねえさ。俺たちの尊さはよぉ」

「そうだ、俺たちは選ばれたんだ。魔力の輝きに」

 次の瞬間、彼らの胸元が黒く光る。それは、夢で見た稚夏の時と似ていた。


「小僧、まずはてめぇからだ」


 その言葉とともに、了哉の左脇にいた賊が上段蹴りを繰り出してくる。とっさに腕でガードしたものの、そのあまりの脚力の前に、前腕の骨が軋み、そして砕けるのを感じる。魔力で肉体を強化されているのだろうか、人間の力の範疇を超えていた。


「ぐっ……」


 衝撃と痛みの前に、了哉は地面に倒れ伏す。


「了哉さん!!」


 エイラの叫びが聞こえるものの、身体は地面から動かない。彼女も複数の賊に取り押さえられているようだった。


「ああ、脆いなぁ……ただの人間はこんなに脆い。俺たちみたいな超人になれなかったことを悔いながら死んでいきな」


 賊は、倒れ伏す了哉の右脚を力を込めて踏みつける。


「ぐ、うぁぁぁぁぁ!!!」


 あまりの痛みに絶叫する。見なくとも、右脚の骨も砕けたことがわかる。


「やめなさい! 了哉さんは関係ない!」


 エイラが叫ぶ。それを嘲る笑いが集団の中で起こる。


「なんだ、小娘。やっぱりお前から先に死にたいってか?」

 

エイラから奪った短剣をクルクルと遊ぶように真上に放っていた賊の一人が言う。


「ならその通りにしてやんよ!」

 

 そうして、手にした短剣を仲間に立ったまま押さえつけられている彼女の胸元めがけ、力いっぱい投げつける。短剣は彼女の身体に吸い込まれるように直撃する。


「エイラ!!」

 

 了哉の叫びもむなしく、短剣は彼女の胸元を正確に抉っていた。血がしたたり落ちる。

 男たちが彼女から手を離すと、糸の切れた人形のように、彼女は地面に崩れ落ちた。


「おまえらぁ!!」

  

 了哉は怒りに任せて叫けぶも、身体はいう事を聞かない。


「ざまぁねえな。ただ、てめえ一人に時間を掛けてられねぇんでな。てめえも爆ぜろ!!」


  そう叫ぶと、賊の手のひらが赤く光り、深紅の巨大な火球が放たれる。それは避けことなど不可能で、了哉に直撃する。


 火球が肉を焦がすのを感じた後……了哉の意識は徐々に遠のいていく。

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