第2話 青春

 隆哉が独身を貫こうと決めたのには理由があった。


 隆哉は一人息子として、夫婦して美容院を経営していた両親の元で不自由無く暮らしていた。

 カリスマ美容師とはいかないがそれなりに店は繁盛していたので、小遣いやゲームなどの遊び道具などに困ったことは無い。ただ、彼女が出来ない、居ないという不満はあった。

 

 隆哉が高校生の時、両親と激しく対立する時期があった。若者の反抗精神と同じ部類に入るのか、彼の場合は大学進学に関してだった。

 元々隆哉はどちらかと言えば内気な人間。高校3年になり、進学勉強で更に一人で過ごす時間が増える。

 勉強漬けは誰でも息苦しくなる。隆哉も当然嫌気が差す時がある。両親の試験勉強に関する会話には、うんざりすることもしばしば。

 そんな時彼は、少し離れた公園に出掛ける。


 その公園は広めに造られていて、子供達のボール遊びも出来る程ゆったりしている。

公園の一角に、運動できる器具というか道具が設置されており、隆哉はそれで、ぶら下がったり身体をほぐしたりして気分転換をする。


 そんなある日、一人の女性が、やはり隆哉の様に気分転換に来たのか、運動器具を利用して身体を動かしていた。

 少し太めの、美人では無い普通の女性だ。

 

 高校生の隆哉にも、何となくその女性には友達が居ないように見えた。隆哉はその女性を見ても興味を持たない。年齢も20歳を超えて居るみたいだし好みのタイプでも無い。

 当然、隆哉から声を掛けるでも無し、アクションを起こしもしない。


 そんな出会いが何度かあってから、何となく気になり始めた何時もの女性。

 隆哉が何時ものように公園に息抜きに行くと、つい、その女性の姿を目で探すようになっていた。


 そんなある時、彼女が一生懸命逆上がりをしようとしている姿を見つける。何度チャレンジしても一向に変わらない下手さに、隆哉は思わず近寄って、

「腕を伸ばしたままじゃ、逆上がりは出来ないよ。懸垂する感じで、腕の力で体を持ち上げるようにして足を上に蹴り上げると案外上手く行くよ」

「そうなの。あなたは出来るの」

「俺、小学生の時、散々練習したから出来るよ」

「遣って見せてくれる?」

 隆哉は彼女の要請に応え、逆上がりの見本を見せた。

 それが切っ掛けとなり、それからは公園で会うと会話を交わすようになった。


 彼女は詩織と名乗った。

 彼女は一人でアパートの部屋を借りて暮らしていた。実家は遠いらしく、近くに知り合いは一人も居ないと言う。

 男は勿論、女性の友達というのも居なかった。

 

 ある休日。何時ものように隆哉が公園で詩織と会う。一時会話を交わすと彼女は自分の部屋に来ないかと誘って来た。

 隆哉に断る理由は無い。タイプでは無い女性だったが、話している内に女を感じるようになっていたからでもある。

 部屋は意外とサッパリしていて、物が少ない。ワンルームなので物を置くスペースが限られているから購入しないのか、それとも、お金に余裕が無いのか。

 

 初心(うぶ)だった隆哉は気付かなかったが、一人暮らしの女性が男を部屋に入れると言うことはそれなりの覚悟が必要だ。

 部屋に入ったものの、二人は居心地が悪そうで落ち着かない。


 コーヒーを入れて飲んだり、音楽を聴いたりしている内に、詩織が隆哉に身体を近づける。

 本能的に女性の臭いを嗅いだ隆哉は今までとは違った気持ちになる。


 二人が動く旅に肌が触れる。初めての体験だけにそれだけで隆哉は興奮する。彼は思わず彼女の胸に触ってしまった。でも詩織は隆哉の手を振り解こうとしなかった。

 恐る恐るだが、隆哉はおっぱいを揉むように掴む。だが、直接感触を味わってはいない。ブラジャーをしているからだ。

 それでも隆哉はかなり興奮する。詩織はうつむき加減に黙して隆哉の手を自由にさせる。

 どの位そうしていただろうか。やがて詩織はそっと隆哉の手を払いのけ、帰るように促す。 

 帰途に就く隆哉の脳裏には、

「あんなことしちゃったから、彼女はもうあの公園には来ないだろうな」

 そんな気持ちになり、未練が襲う。

 と同時に、詩織の胸の感触を思い出す。すると、忽ち歩き辛くなった。



 数日後、隆哉は公園に行った。意識して平日にした。土日とかその前の夕暮れだと、大概彼女と会えた。

 隆哉は、もし詩織が来ていなかったならと思うと、それを確認するのが怖かったのだ。なので、敢えて平日を選んだのだが、遂、当たりを見回してしまう。

 

 詩織は普通に働いている女性。しかも、彼女のアパートからは少し離れている。仕事が終わってからこの公園に来るとは思えない。

 幾らふっくり目の体つきでもダイエットの為とは言え、毎日運動に励むのは無理な気がする。


 やはり詩織の姿は無い。だからといって隆哉はこのまま帰る訳にはいかない。何故なら、塾を休んでここに来ている。

 早くに帰れば両親に何を言われるか分からない。

 時間を潰していると、何と入り口付近に詩織と同じ様な体格をした人影が見えた。

一瞬、隆哉はどうしようか迷う。

 すると、足早に人影が近づいて来た。

「今晩は」

 彼女が挨拶をして来た。隆哉も挨拶を返す。

 暫し沈黙の後、詩織は言う。

「用がなかったら、次の日曜日にまた来る?」

 隆哉の顔が崩れた、あらん限りの笑顔で再訪を約束する。



 日曜日。隆哉は早めに詩織のアパートに行く。早ければ人と会う機会が少ないと考えてだ。

 案の定、アパート住民は静かだ。寝ているか活発な活動前なのだろう。隆哉はドアを2回軽くノックする。ドアは直ぐに開かれ、彼は滑るように部屋の中に入る。

 会話は口数少なくヒソヒソ声。冷蔵庫からお茶のペットボトルを出す詩織。

 

 二人は前回の様に並んで壁に背をもたれさせる。そして、スマホから静かな音楽を流す。

 隆哉は既に音楽が耳に入って来ない。

 彼は詩織に目を向ける。視線が合った。彼女は恥ずかしそうに視線を逸らし俯く。

 人間は言葉が無くても相手の気持ちを読み取れる場合がある。


 隆哉は前回の様に詩織の胸に手を当てた。隆哉の為すままにする詩織。すると隆哉は更に大胆になり。彼女のシャツのボタンを一つ一つ外していく。

 徐々に大胆な動きをする隆哉を、止めもせず受け入れる詩織。詩織は隆哉に身を寄せるように寄り掛かる。

詩織の手が、隆哉の股間に伸びた。形を確かめるように摩る。

 

 遂に隆哉は我慢できず発射してしまった。それに気付いたのか、詩織は膝立ちし、

「出ちゃったの? そのままじゃダメだから脱いで」

 小声で言う。

「えっ、何でも無いよ。大丈夫だから」

 隆哉は恥ずかしかった。パンツを汚してしまったのもそうだが、詩織の前に下半身を晒すのは未だ抵抗がある。

 すると、詩織はバスタオルを持って来て彼に渡した。

「これを巻けば恥ずかしくないでしょ?」

「パンツ、どうするの?」

「拭いて乾かすの。そのままじゃ外歩くの嫌でしょ?」

「いや。俺は大丈夫だけど」

 と言いながらも、隆哉はタオルを巻いてパンツを脱ぐ。女性の前でパンツを脱ぐのは勿論始めた。何か不思議な興奮が再び湧いて来た。


 詩織は汚いと感じないのか、隆哉のパンツを裏返し、ティッシュときつく絞ったタオルで汚れた部分を拭き取る。その後、ドライヤーで乾かした。

 その間、詩織はブラジャーは付け直したが、シャツのボタンは閉めてない。その姿を艶めかしく感じる隆哉。いつの間にか股間がまた元気になっている。


 隆哉は物欲しそうな目で詩織に言う。

「いい?」

「今日はこのまま帰って」

 詩織の言葉に、彼は諦めパンツやズボンを穿く。

「また来ていい?」

 まるで子供が親にねだるような言い方だ。

「来週は駄目。後で」

 また、彼女の部屋に入れる日は連絡すると詩織は言う。


 帰り際、直接胸を触ったから嫌われたのかと考える隆哉。その時閃くように

「そうか、きっとあの日なんだな」

 女性の事など何も分からないのに、友達から聞き及んだ知識を持ち出し、隆哉は一人納得して帰途につく。


 数週間が過ぎた。隆哉は今まで以上に頻繁にスマホを覗くが、詩織からの連絡が無い。彼は詩織との事で頭が一杯で勉強に身が入らなくなる。

「もう、俺のことが嫌になったのかな? あんなことしたから避けてるのかな?」

 彼は思い悩む。

 詩織の胸を触ったこと。パンツの中に射精したこと。色々考える。

 高校生とは言え、今の時代AVなどのアダルト動画を観る機会はある。友達同士で動画の遣り取りもする。

 なので、頭の中ではセックスはどうするのかも知っている。とは言え彼は単なる頭でっかち。実践経験の無い夢想状態。

「俺がパンツの中に射精しちゃったから、早すぎると思われ避けられたのか?」

 色々考えると勉強が全く手に着かない。

 気持ちは分かるが、殆ど知らないに等しいのに余計な事を考えるのが若者心理。気の毒になる。


 そんな悄気てる最中に待望の詩織からの連絡があった。当然、今までの不安や不満が一気に消え去る。


 当日、何時ものように早めに詩織の部屋に行く。

「身体でも悪かったの?」

「うん」

 彼女はそう答えただけ。

 前回と雰囲気が違う感じがして、今日は彼女の身体を触れないかも知れないと、隆哉は内心がっかりする。

「ねえ、今年は受験勉強しなくちゃならないんでしょ? 大丈夫」

「勿論大丈夫だよ」

「ここに来たことで成績が落ちたら、私、困る」

「そんなこと無いって。普段は一生懸命勉強しているから」

 全くのデタラメが隆哉の口からスラスラ出る。

「なら、良いけど」

 そう言いながら、詩織は何時もの場所に座り、身体を壁に凭(もた)れる。隆哉も隣に座り同じように寄り罹る。


 言葉が途切れると、隆哉は恐る恐る詩織の身体に手を伸ばす。彼女の拒絶反応は無い。それを確認すると、隆哉は前回の様に胸を捲る仕草になる。

 今日の彼女はTシャツ。簡単に捲れる。


 遂に二人は一線を越え、深い仲になる。

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