恋の殺意
大空ひろし
第1話 共同生活
共同生活
増原隆哉36歳。仕事はしていない。 両親は交通事故で死亡。両親の残した資産や事故保険で手にした纏まったお金で、仕事もせずに暮らして居る。
社会が大きく変革しない限り、何とか70歳ぐらいまでは無職でも暮らせそうだ。それ以後の事は、彼は考えないようにしている。
隆哉はこの年齢まで独身で来ている。女性から嫌われるタイプでは無いが、関わるのが面倒になったからだ。
慣れれば、女性と緊密な接触が無くても何とも思わない。一人の方が煩わしさが無くて、却って快適に暮らせる。
隆哉がのんびり一人暮らしを出来るのも、全て両親のお陰。彼には、両親が残してくれた戸建ての家もあった。
場所は交通の便が良い都心に近い郊外。
独身で一人暮らしの隆哉。近所からは気持ち悪がられている面も風に乗って伝わって来る。
実に迷惑な世評とも言えるが、今はもう慣れた隆哉。
そんな隆哉にある日電話が入った。迷惑電話や勧誘電話が多いので頬って置いたが、実に長くコールしてくる。
何事かと気になって電話に出ると、田舎の叔母からだった。
「留守かと思ったよ。居るんなら早く出なさいよ」
「ごめん、電話機から離れた部屋に居たので」
「いい加減にスマホを持ちなさいよ。お金が無い訳では無いんでしょうが」
「必要性を感じないよ」
「そうか、あんたの場合はそうなのよね」
叔母は、隆哉が一人暮らしで家族が居ないのを想い出したかのように言う。
「あのさぁ、相変わらず一人で住んでいるのなら、空いている部屋あるよね」
「使っていない部屋、あるけど物置小屋になっているよ」
「あんた、一日中家に居て片付けもしなの?」
呆れたという雰囲気だ。
「俺の家だし、別に良いじゃ無い」
反発するように言葉を返す。
「所でさ、掃除は私たちがして上げるけど、その部屋貸してくれない?」
「叔母さん、離婚でもしたの」
「違うよ。あんな旦那でも分かれたりはしないよ。その部屋を借りたいのは娘。利佳よ」
「利佳りゃん、学校行かないの? 不登校になったの? それとも引き籠もりで追い出すつもりなの」
「えー? 若しかして、利佳を小学生か中学生だと思っていない?」
「違うの?」
「春から大学よ」
「そうなんだ。そんなに大きくなっているんだ。俺また、小学高学年ぐらいだと思っていたよ」
「暫く合ってないからね、そう思うのも無理ないわね。しかし、あんたと話していると先に進まないね」
「そう? じゃー、話し進めてよ」
「でね、大学はあんたの住んでいるところから近い大学に合格したの。まだ未成年だしアパートでの一人暮らしはとてもさせられないから、あんたの家から通わせようかと」
「大学には寮みたいなもの、無いの?」
「そんな感じの住まいがあるらしいけど、折角あんたが近くに住んでいるんだから、そこから通わせた方が娘を監視するに良いじゃ無い」
「叔母さん、ハッキリ言って良い?」
「迷惑だとでも言うのかね。若い女が居た方が楽しいだろうがね」
「一人の方が良い」
「分かった。取り敢えず近々行くから宜しく」
叔母は電話を切ってしまった。
2週間ぐらいして、叔母と娘の利佳が本当に増原家に遣って来た。
「良いじゃ無い。駅からも遠くないし、道も人通りが多そうだし」
挨拶もそこそこに叔母は娘に語りかける。
「問題は家主ね」
とんでもない事を言う叔母だ。抑も、隆哉は部屋を貸すとは言ってない。なのに叔母は娘の利佳を住まわす気でいる。
そんな叔母を相手にせず、隆哉は後ろに立つ利佳を見た。前回会ったのは確か彼女が小学生の時。今ではすっかり大人の女性だ。
「スケベそうでもないし、ちょっと気持ち悪い雰囲気もあるが、隆君ならレイプされないだろから」
何てことを言うのだろう。
突然現れて、レイプ魔かどうか言うなんて。叔母だとは言え、隆哉は腹が立った。
「叔母さん、俺、未だ部屋を貸すとは言ってないんだけど」
「細かいことは言わないの。親戚でしょ。あんたの父親は私の兄よ。オネッショをする兄を私が両親から庇ってあげたのよ。兄を一生懸命守って上げてたのよ。子供の時だけど」
そんなの隆哉には関係無いし、抑もそんな話しを父親から聞いた事も無い。
「どう、利佳、美人になったでしょ?」
利佳は母親が押す程、美人では無い。
「もっと綺麗になるわよ。プチ整形する予定だから」
「お母さん、そんな事言う必要無いでしょ」
「その為にもね、隆君の家から通わせたいのよ。部屋を借る資金が浮くでしょ。全く今の子は、綺麗になる為にはお金を惜しまないのだから」
単なる若い女性の見栄に聞こえるが、叔母の話には圧を感じる隆哉。利佳に部屋を貸したくないが断り切れなくなる。叔母の圧力に、遠回しに締め付けられている気がする。
「あのね、食事代ぐらいは払うわよ。電気などの光熱費は計算できないからお願いね。その他、利佳が私用で買ったりした物は自分で払わせるから。化粧品とか」
当たり前である。
抑も、個人的に使う物までお金を出して遣る理由がない。更にむかつくのは、叔母の口から部屋代の話しが出ない事。
「それから、これ、大事なんだけど、利佳を襲わないでね。この子、未だ処女だから。そうよね、利佳」
「そんなの、どうでも良いことでしょ。いちいち言う必要無いでしょ」
「えっ、若しかしてもう男に抱かれたの?」
「そんなわけ無いでしょ!。親子でも、それはプライバシーの範疇」
かなりの勢いで母親を睨む。なかなか気の強そうな女性だ。
「じゃ、そういうわけで宜しく。利佳が住む部屋ちょっと見せて貰うね。何処?」
娘の怒りなど何処吹く風。バシバシ勝手に進め決めてしまう叔母。
暫く女性と積極的に接していない隆哉は負けてしまう。結局強引に押してくる叔母の勢いに屈して、彼は利佳に部屋を貸すことにした。
利佳が移り住む前に、結構な荷物が宅配便で届いた。
一週間ほどで利佳が一人で遣って来た。
「私、男の人と二人きりで暮らすの初めてなの。嫌なこと絶対にしないでね」
勝手に押しかけて来て、なんて言い草なのか。利佳も母親に似て実に厚かましい。
「あのさ、一緒に住むのなら我が家のルールに従って貰うから。それが嫌なら他に住む所を探してくれ」
隆哉は住むに当たってのルールを書いていた。
門限はどうのこうのとか、食事や食料に関して、後片付けや掃除に関して。彼は思いつく限り書き記している。
利佳はそれを読みながら、
「わー、叔父さんって細かい人なのね」
「大人になったらルールを守れる人間にならなくてはな。それが社会に適用する第一歩だ」
なかなか噛み合わないじれったさを感じるが、こうして隆哉と利佳の暮らしが始まった。
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