第2話 俺の上司はクソ上司

清々しい青空の下、白百合と死体に囲まれながら、生き残った部下の点呼をとっていると、空から本物の魔法少女が降りてきた。黒髪に白いフリフリを纏った奴は、随分とまあ心を痛めた様な顔をして降りてきた。

 

 「フランチェスカさん。お久しぶりです。えっと、亡くなった魔法少女の皆さんは残念でした」

 

 「いやはや、本物の魔法少女様はまがいもんにも優しいねえ。哀れみをくれてやるつもりなら気にせずとっとと帰んな。ホワイトリリー」

 

 ホワイトリリー。こいつは本物の魔法少女の1人で、TS魔法少女に対してお情けをかけてくれる数少ない良心の1人だ。

 

 なにせそもそも女自体が魔法少女になるならない問わず、揃いも揃って蝶よ花よと育てられて特別な存在として扱われるもんだから、傲慢で自分勝手な奴ばっかだ。

 

 それでも俺達TS魔法少女が現れるまでに魔法少女になった奴らは今まで魔法生物に対して使い物にならん軍人の代わりに命をかけ続けてたし、同じ部隊の仲間として活動して居た時期もあって、俺たちの事を大なり小なり仲間として扱ってくれる。

 

 問題は俺達TS魔法少女が出来てからの魔法少女だ。

 

 TS魔法少女が現れてから魔法少女になった奴は殆どが一度も命をかけた実戦を経験した事ないくせして、魔法生物を倒せる必殺技が使えるってだけで自分が最強であるかの様に振る舞う。

 

 そして必殺技が使えず、魔法生物と戦うたびに何十人と死んでいるTS魔法少女を無能だなんだって見下してやがる。

 

 そんな中、こいつはどう育てられたのか知らねえが、TS魔法少女に対してもお情けをくれる魔法少女だ。そんなんだから同世代の魔法少女の中で少し浮いているらしい。

 

 まあ正直こいつは俺達に哀れみをくれてやるくらいで実際どうこうってわけじゃあ無いから、一部のTS魔法少女からも偽善者の自己満ナニ野郎なんて言われてたりするがな。

 

 「な、そういう訳では!」

 

 「こっちはとっとと回収班呼んで死体集めて、基地に帰りてえんだわ。邪魔だから帰った帰った」

 

 俺がそう言うと、ホワイトリリーは何処か悔しそうな表情を浮かべながらもと来た方へと飛んでいった。

 

 「良かったのですか?」

 

 「何がだ?」

 

 「いつもああやってホワイトリリーを邪険に扱って。あの子、飛ぶ時泣いてましたよ?別にフランチェスカもあの子を悪く思っている訳でも無いでしょう?」

 

 俺とホワイトリリーのやり取りを見ていたレーゲンシルムがそう話しかけてきた。

 

 こいつは俺が軍人だった時から付き合いのあった奴で、こいつも元は屈強な軍人だった。適応力が無駄に高い奴で、TS魔法少女した後一番最初に女らしい言葉遣いだとか仕草をする様になった。

 

 普段は俺の隊で副隊長をやっている。

 

 「あんまり俺達に入れ込んだらTS魔法少女が自分の代わりに危険な目に遭って死んでってる事にあいつは耐えられなくなりそうだからな。貴重な魔法少女を、俺達TS魔法少女のせいで潰す訳にはいかねえ。それに、うちの部隊にもあいつの事が嫌いな奴が何人かいるからな。あいつらの気持ちもわかるから、あんま仲良しこよしって訳にもいかねえよ」

 

 「なるほど。理解しました。ひとまず回収班呼びましたから、基地に帰りましょうか」

 

 「そうだな。お前ら!回収班が来る前に。基地に帰るぞ」

 

 そう言って俺達は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちTS魔法少女の基地は、空にある。

 

 ジャンヌダルク級空中魔動母艦一番艦『ジャンヌダルク』

 

 はるか昔、フランスで魔法少女でありながらも騎士としても戦った英傑の名を関するこの艦は、遊撃部隊の輸送を目的としており、建造されてから100年経った今でも現役で飛び続ける俺たちのホームだ。

 

 常時500人ものTS魔法少女を収容していて、中には魔法少女の居住スペースの他に、ブリーフィングルームや医療施設何かの実用的な物から、レストランや商店街、ちょっとした緑を感じられる艦内テラスなんかの娯楽も用意されている。

 

 まあ、本物が乗っている艦みたいに、専用の一流シェフだとか医師、美容師のいる艦と違って、全ての管理運営は自分達でやらなきゃ行けねえけど。

 

 そんな俺達の母艦、ジャンヌダルクの甲板上に降りる。

 

 「フランチェスカ隊。帰還した」

 

 「お疲れ様です」

 

 俺達が降りた甲板には、数十人のTS魔法少女が俺達を出迎えた。

 

 「負傷している方はこちらへ!そこ!千切れた所の保護!綺麗にしないとくっつけられないよ!」

 

 白い服を着て、腕に赤十字の腕章をつけたこいつらは、元衛生兵や軍医、医療関係者の魔法少女と回復系統の魔法が使える魔法少女で、普段はそれぞれ所属している部隊がある。

 

 だが、有り難えことに自分の隊が非番の時に他の隊が任務から帰ってきたらこうして救護活動に参加している。

 

 「よし、取り敢えずここで解散だ。俺は上のクソボケに報告してくるから、怪我してるやつ以外とっとと変身解いとけ」

 

 「「「了解!」」」

 

 俺は部下にそう言って変身を解いて、魔法少女じゃない、か弱い女の状態になる。そのまま歩いて階段を下って、非番の奴らとすれ違いながら、そのまま長い艦内を進んでいく。

 

 そうして辿り着いた先は、ジャンヌダルクの艦橋真下にあるブリーフィングルーム。

 

 部屋の扉を開けて、部屋の奥の真ん中、スクリーンの前に置いてある台の前に立つ。

 

 すると目の前の台の裏からホログラムによって1人の男が映し出される。そいつはいつ見ても気持わりい面をした、軍服を纏ったクソみたいな上官どのだった。

 

 「ふむ、今回もしぶとく生き残ったみたいだな。今度は何人部下を死なせたんだ?」

 

 開口一番、忌々しい上官どのはそう言った。こいつは書類上じゃフランチェスカの艦長で、俺やこの艦で自分の隊を持っている魔法少女達の直属の上司になっている。

 

 「13人です。上官どの。」

 

 「そうかそうか。良かったなフランチェスカ。これで死なせた部下の数がジャンヌダルクの隊長格の中で歴代一位になったぞ。記念に今まで死んだ部下の名前を朗読してやろうか?」

 

 「はい、いいえ。生憎上官どのと違って忙しいのでその様な時間はありません」

 

 「む?そうかね。これでも我々はお前達よりも忙しいのだかね」

 

 よく言うぜ。こいつが普段やってることといえば弱ったTS魔法少女の心に漬け込んで男から女に堕とすことだってのに。

 

 「忙しいと言うのはTS魔法少女に対する変態行動でありますか?」

 

 「何を言ってる。あれは彼女等が自分の意思で行なっている事だ。お前ももうそろそろ私の元に来ないか?ちょうど1人飽きたから処分しようと思ってな」

 

 いつ聞いてもヘドが出る。なんでもこいつは女の体になりながら、いつまでも男として振る舞おうとするTS魔法少女が女になるのを見るのが好きらしい。そうして飽きたら適当な前線に送ってそいつが死ぬまでを楽しみに待ってやがる。

 

 「はい、いいえ。拒否します。ところでその処分されるTS魔法少女は何処に?」

 

 「あ?適当な前線に送ろうと思っているが…まさか私の中古が欲しいのかね?」

 

 上官どのは怪訝な顔をした後、ハッとなり、一転してニヤニヤと気色の悪い顔をしながら俺の顔を見つめてくる。

 

 「はい、そのまさかです。良ければ私の所に」

 

 気色の悪い勘違いをしているコイツのホログラムを叩っ斬るのを抑えて答える。

 

 「ふはは!お前、私の誘いに靡かんと思っていたが中古がタイプか。わかった。明日のお前の隊への補充に加えといてやろう。ひとまず私はその手配をするから切るぞ」 

 

 上官どののホログラムが消えてその場に俺だけが残る。

 

 「死ね」

 

 いつ話しても気色悪りい。あいつはTS魔法少女を面白いおもちゃくらいにしか思ってねえ嫌がらせが大好きな変態野郎だ。

 

 コイツには俺が軍人だった頃の先輩も堕とされているし、俺に対しても顔を合わすたびに話を持ちかけてくる。ある種因縁の相手と言ってもいい。

 

 俺はイライラを抱えてながらブリーフィングルームを出る。

 

 ドンッと乱雑に扉を開けると、直ぐそこにはレーゲンシルムが立っていた。レーゲンシルムは俺の方を見ると、空中パネルを出現させて、何かを表示させて俺の方へと見せてきた。

 

 「フランチェスカ。次の任務が決まった様なので伝えにきました」

 

 そう言って見せられた空中パネルには、現地の地図と、作戦概要が表示されて居た。内容としては、戦線の維持が難しい所があるからそこの救援に行けとのことだ。

 

 「場所は北アメリカ戦線。長らく大きな動きの無かった旧カナダの魔法生物、使い魔が攻勢を仕掛けて来たようです」

 

 「魔法生物の攻勢…2ヶ月ぶりだな」

 

 「前回のヨーロッパ戦線はどうにかなりましたが、北アメリカ戦線は守り切れるでしょうか?」

 

 「さあな。ヨーロッパ戦線と違って、北アメリカ戦線はアメリカと滅亡したカナダの国境線だからな、何処かしら抜かれるかもな。任務についてはわかった。俺からもお前に話しておかなきゃいけねえことがある」

 

 「なんですか?」

 

 レーゲンシルムは小首を傾げて俺に問う。

 

 「明日の補充についてだが、1人訳アリを引き取ることになった。上官どののお遊びでメンタルがやられてるだろうから少し気にかけてやってくれ。配属先はひとまず俺の隊にする」

 

 「あのゴミのおもちゃだった子ですか。まともだと良いんですけど。それにしてもフランチェスカ。あんまり訳ありの子を引き取っちゃダメですよ?ただでさえ仲間達は死んでいくのに。訳ありに情けをかけて引き入れた結果、先に居た子が死ぬなんて嫌ですからね?」

 

 「わかってる。あまりにもダメそうなら最悪俺がやるさ。取り敢えず頭の隅にでも入れといてくれ」

 

 「了解です」

 

 明日来るおもちゃにされてた新人も、次の任務についても何事も無く終われば良いが…

 









 魔法生物の設定1


 人類の敵である魔法生物には、何かしらのモチーフとタイプがある。モチーフは、地球に存在している何かしらが選ばれて、それに沿った巣や使い魔を生み出す。


 タイプは近接型、遠距離型、寄生型、洗脳型、苗床型のメインとなる5種と、その他少数しか確認されていないタイプが複数あり、それぞれの魔法生物のメインとなる攻撃方法に基づいて判断される。


 近接型は主に自身の爪や腕、足などの体を使った攻撃や、剣や斧などの武器を使って攻撃をするものを指す。


 遠距離型は魔法によって炎や水などを出したり、口からビームを吐き出す様な魔法生物が分類される。遠い所にも攻撃が届くという意味では、触手などを遠くに伸ばして攻撃する魔法生物も含まれるかもしれない。


 寄生型は生物の身体に何らかの方法で使い魔を潜り込ませて操ったり、養分にする事でより強力な使い魔を誕生させたりする。基本寄生されたら助からない。


 洗脳型は特定の条件下で味方を敵と誤認させたりする魔法生物である。目を合わせる事が条件になっている場合が多く、寄生型と違って魔法生物を殺せば解ける事が多い。


 苗床型は使い魔を作ることは出来ないが、他の生物を母体とすることで使い魔を誕生させる事が出来る。何らかの物質が投与されてる場合が多いため、後遺症が残りやすい。


 尚、これらのタイプは現場で判断される為、誤ったタイプで報告されることも多く、近年では2タイプの複合型である場合も多い。


 また、同じタイプの魔法生物でもモチーフによって大きくその性質が変化する。


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