TS魔法少女は使い捨て!
@HumitukiHumi
第1話 TS魔法少女
前を見ると、暗雲と言うには明るい色をした、春は曙って聞いて思い描く景色を色にして描いた様な雲が目線の先に広がっている。あそこから何が湧いて出てくるか知らねえやつが見たら幻想的とでも吐き捨てそうな光景。
後ろを見ると、ピンクに赤、黄色に黒。ゴスロリにthe魔法使い、チャイナっぽい衣装なんかに身を包んだ10代の女、凡そ50人がそれぞれの方法で空を飛んでる。きっと遠目から見りゃ、絵を描いてる途中のパレットみてえにカラフルに見える。
普通の奴が来たらコスプレじみたりちょっと痛い奴に見える衣装を着こなしている後ろの奴らは、系統に違いはあれど、誰も彼も顔がアホみたいに整ってやがる。こいつら全員が元男だって知ってても、変な事考える奴がちょいちょいいるくらいにはな。
かく言う俺も、元は軍人でゴツい男だったのに、今じゃ軍服は黒いドレスに、2メートル近くあった身長は、元と比べて遥かに小さい143センチ。自慢だった筋肉は華奢になった体じゃ見る影も無い。髪も坊主頭から銀髪ロングになっちまった。
「フランチェスカ。全員配置に着きました」
…名前もこんなんだ。
「よし、わかった。それじゃあお前ら!突っ込むぞ!」
「「「「応!!!!」」」
あ〜あ、いつ聞いても可愛らしい声なもんで…
元軍人だった俺が、こんな姿になっているのには理由がある。今から数年前のことだ。
昔から地球では魔法生物と、そいつの使い魔が出現して、それを魔法少女が倒していた。これは小学生でも知ってる常識だ。で、戦ってると当然魔法少女は負傷して一線を退いたり、死んだりする。
それまで魔法少女が減ったら、12歳から18歳までの女を集めて新たな魔法少女にしてたが、有史以来そんなことしてたせいで、世界の男女比がとんでもねえ事になった。「このままじゃ魔法少女が確保できなくなる!魔法少女じゃなきゃ魔法生物を倒せないのに!」って世界で大騒ぎだ。
日に日に減る魔法少女と、それの影響で狭まっていくようになった人類の生存圏。世界にある国の多くが滅び、陸地の5割、海の6割が魔法生物の蔓延る場所になった頃、各国の軍隊(とは言っても当時には米軍を主体に統合されている途中だったが)にこんな話が舞い込んできた。
「今まで魔法生物に対して無力だった貴方達でも、魔法生物と戦える方法を見つけました!」てな。
沢山の軍人が飛びついたさ。銃だとかミサイルがあっても、魔法じゃなきゃすり抜けちまうから、魔法生物のせいで守れなかった物があるやつなんて沢山いたからな。
で、結果がこれってわけだ。
話に飛びついた奴らはみんな女の子にされて、徒党を組んで魔法生物を食い止めに行ってる。ただしほぼ捨て駒に近い形でな。
なんでかってえと、魔法生物をころすには、弱らせてから必殺技を当てなきゃいけねえ。それ以外じゃたとえ魔法少女がどれだけ攻撃しても、ミンチ状にしたとしても魔法生物は再生して手下を出しまくる。
だが俺たち元男の魔法少女は魔法は使えても必殺技を使えない。唯一魔法少女に優っている点といえば、数だけはいくらでも賄えるってところだ。だから上の連中は本物の魔法少女が来るまでの足止めや、戦線を維持する壁としか見てないし、かつては本物1人と沢山の偽物がセットで派遣されていたが、最近じゃあ俺たち元男の魔法少女が魔法生物を無力化して、万が一でも魔法少女が傷つかない状態でしか派遣しなくなった。
本物の魔法少女や上の連中はそんな必殺技の使えない俺たちをなり損ないって下に見ている。そのくせ反乱を恐れて上に実害を及ぼそうとした瞬間に体が動かなくなるようにされてる。
死んでもいくらでも代わりがいて、それでいていくらでも言うことを聞かせられる存在。
正直言って本物の魔法少女や上の連中は気に入らねえが、俺たちがやらないと世界を守りきれないのも事実だ。
だから今日も今日とて、俺たちは本物の魔法少女の代わりに命を賭けているってわけだ。
「右前方っ!使い魔を確認!その数30!兵隊のくるみ割り人形です!」
部下からの報告が飛んでくる。言われた方を見ると、光沢を持った新品のくるみ割り人形達が、口をガチガチ鳴らしながら迫ってきていた。
「飛行経路を右に30度修正!遠距離魔法放て!」
俺の指示に従って、周りのTS魔法少女達がそれぞれの魔法でくるみ割り人形に攻撃すると、くるみ割り人形の内数十体が木片を散らして吹き飛んでいく。
だが、今の攻撃が当たらなかったり、致命傷にならなかったくるみ割り人形は、速度を上げて迫ってくる。
「近接戦闘!」
俺はハルバードを出現させて、向かってくるくるみ割り人形数体を一度に真っ二つにした。
周りを見ると、くるみ割り人形に押し負けて食い殺されそうになってる奴がいたからそっちを助けて、再度元の進行方向に進む。
他のやつもくるみ割り人形をぶっ壊して俺の後ろに戻ってきた。そのまま雲の奥を目指して飛び続ける。
魔法生物との戦闘は基本的に遠距離から魔法を放ってから、そのまま格闘戦に移ることが多い。
そしてその流れを数回繰り返した後、俺たちは目の前に広がる雲の中、魔法生物の巣に入る。
オレンジ色の雲を通り抜けた先には、氷砂糖で出来た平原や、オレンジエードが流れている川や、チョコレートの家なんかの甘ったるそうな物で出来た世界が広がっていた。
中央にはシフォンケーキの城があって、その上には、髭のある王冠をつけた巨大なくるみ割り人形がいた。あれが今回の魔法生物だ。周りには途中何度も戦った兵隊のくるみ割り人形が何体もいる上に、ジンジャーマンクッキーやチョコレートで出来た人形、ティアラをつけた金平糖みたいな、外では見なかった奴までいる。
「いつも通りだ!俺とレーゲンシルムの班で魔法生物をやる!他は使い魔を殺れ!」
そのまま俺たちはまっすぐ魔法生物の方へ向かって飛んで行く。当然近くにいた使い魔が俺たちの方に向かってくるが、周りの魔法少女の8割が迎撃に向かって使い魔をぶっ殺しに行く。
俺と、魔法生物をやりに行く部下は、目の前の使い魔だけを殺して、魔法生物の元に辿り着いた。
王冠をつけたくるみ割り人形が巨大な剣を振り、俺たちを叩き斬ろうとする。俺達はスピードを上げて急接近して、顔に向かって魔法を放つ。
それをくるみ割り人形は左手で受け止めて、そのまま俺達を掴もうとする。俺達はそれぞれがバラけて手を避けようとした。
「きゃあ!」
「ぷぐッ」
1人が掴もうと出した手に吹き飛ばされて、1人が握り潰された。くるみ割り人形の握り込んだ手から、目が飛び出したあどけない顔が見える。
くるみ割り人形は直ぐに手を離すと、今度は殴りかかってきた。それを一緒に魔法生物を抑えにきた魔法少女、レーゲンシルムが魔法の傘を開いて受け止める。
俺は今度は狙いを変えて、レーゲンシルムが受け止めてる左手の手首を叩き斬ろうとハルバードを振り下ろす。
するとバキッと音を立ててそれなりの凹みが出来た。そこに俺と近くにいたTS魔法少女で更に畳み掛けて左手を落とす事に成功した。
「次ッ!剣持ってる方やるぞ!レーゲンシルムは左手が再生しない様頼む!」
俺は次の指示を出して直ぐに、右手を落とす為に体の向きを変える。くるみ割り人形の剣を見ると、1人の魔法少女が背中から突き刺されて、顎の下から股にかけて切先を覗かせつつ、体をのけぞらせていた。
くるみ割り人形は剣を振って、突き刺さった魔法少女の死体を地面に飛ばすと、次の標的を仕留めようと周りの魔法少女に向けて剣を振り回す。
俺は右手の下側から近づいて、手首の内側に向かって今度はハルバードを振り上げる。
「オラアッ!」
振り上げたハルバードは、たまたま当たりどころが良かったのか、一撃で右手を砕く。
「最後は顔だ!口に気をつけろ!」
俺が破壊した手を破壊し続ける奴を除いて、残った魔法少女で遠距離から顔に向けて一斉に攻撃をしまくる。
くるみ割り人形は腕を曲げて顔を守ろうとするが、手が無くなった腕じゃあ顔まで届かない。
火やらキラキラやら何やらで顔が吹き飛んだくるみ割り人形は、糸が切れたみてえに力が抜けて、シフォンケーキの城を巻き込みながら倒れやがった。
「よし!魔法生物は無力化したから後はこのままにするだけだ!まだまだ元気なやつは雑魚狩りに加勢して、怪我してるやつと変わって来い!」
「フランチェスカはどうするのですか?」
「レーゲンシルム。お前いつの間に?」
「さっき頭を破壊したのを見て腕を噛みちぎられた子に代わりを頼みました。これから使い魔の所へ行く予定です」
「おう、そうか。俺は勿論雑魚狩りの方に行くぜ。どうにも数だけは多いみたいだしな」
「そうですか…いえ、その必要は無さそうですよ」
そう言ってレーゲンシルムは俺たちが巣に突入してきた方を指差した。そこには白色のフリフリを着た、本物の魔法少女が長い杖を片手に飛んできていた。
「お、ありゃ当たりの奴だな」
「無垢なる少女の願いが妖精王を突き動かし、眼下の全てに白百合を咲かす!喰らいなさい!ホワイトリリーピュアフィケーション!!!」
本物は杖をくるみ割り人形の方に向けると、特大の白い光を放った。
その瞬間、巣は光を放ってそこかしこから白百合が咲き始める。それは使い魔からも生えてきて、百合の花の茎が首を絞める。
そして死んだ使い魔達は淡い光となって空に上がっていき、清々しいほどの青空へと登る。
周りはこれでもかと咲き誇る白百合と、死んだ魔法少女達の死体だけが残った。
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