ニワトリの朝鳴きってクッソうるせぇのよな

「あ、あんた……!」


 負傷した少女を庇うように前に立ち、ありったけの声量で威嚇する。

 ニワトリに鳴き声ってのは、凄まじい音量を誇るんだぜ。それこそ、近くで聴いたら耳が破壊されるくらいにはデカい音が出せる。


「コケェェエエェェエエェエエェッ!!!」

「ブ、ブモッ……!」


 迫真の表情を浮かべ、翼を広げながら、大音量で最大限の声を上げまくる。心なしか、デビルボアが後退したような気がした。

 流石は『夜明けを告げる鳥』なんて呼ばれてるだけあるよな。自分でもビックリの声量だわ。


「ブモ……ブモォォオオオォオオォ!!!」

「コケッ!?」


 こちらの大音量に対抗するためか、はたまた自分を奮い立たせるためか、デビルボアは空に向かって吼え始めた。

 なるほど。知性があるってのは野生界ではデメリットになるかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 こうやって自らを奮い立たせる方法を確立させているなら、知恵は立派な武器となる。


「ブモォッ!」

「コッ!」


 咆哮が終わると同時に、デビルボアは一際大きく前脚を踏みしめた。その眼光は鋭く、まさしく野獣の如し。

  どうやら、あちらさんも覚悟を決めたらしい。こいよベネット、理性なんて捨ててかかってこい。


「ブモォォォオオオォォオオオォォ!!!」

「っ……!」

「コケーッ!!!」


 大きな雄叫びと共に、デビルボアが一直線に突っ込んでくる。その光景はまるで、10トントラックが真正面から爆走してくるようなものだ。

 普通なら絶望して膝をつく場面だろう。だがしかし、ニワトリであるオレにはつく膝が無い──よって、絶望もしない。どうだ、この完璧な理論武装。

 名付けて『タマゴが先かニワトリが先か』理論だ。


氷結岩壁アイスウォール


 なんて現実逃避をキメていたら、唐突に周囲の気温がガクッと下がった。

 それと同時に、オレとデビルボアの間に巨大な氷の壁が生成される。


「ブモォォォッ!?」


 まさしく、一瞬の出来事。

 加速した車が急に止まれないのと同じように、突進するデビルボアもまた、急には止まれない。

 するとどうなるか──答えは自明の理である。


「コケ……」


 凄まじい轟音と共に氷の壁が砕け散る。

 その数秒後、重厚な音を立ててデビルボアが地面に沈んだ。

 その額に、でっかいたんこぶを作って。


「やっと見つけた」


 倒れ伏したデビルボアの上に、ふわり、と一人の少女が降り立った。

 青を基調とした、魔法使いを思わせる長いローブ。同じく青を基調とした、つばの広い三角帽子。

 そんな、いかにもザ・魔導士といった姿をした少女が、眠そうなジト目でオレを──いや、オレの後ろにいるオレンジ髪の少女を見つめていた。

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