イノシシも結構美味いんだよな

「あ、ぁ、あ……で、デビルボア……なんで、こんな所に……」


 なるほど、あの獣はデビルボアって言うのか。確かに、全体的に黒っぽい体毛を生やしてるし、そう呼ばれるのも分かる見た目をして──って、考察なんかしてる場合じゃねぇ!


「コケコケコケ!」

「ハッ……! そ、そうだね! 今はとにかく逃げないと──」

「ブモォオォオオォ!!」

「きゃぁぁあぁあぁああぁ!?!?!?」

「コケェェェェェェ!?!?!?」


 今すべき行動を思い出した少女は、オレを抱いたままデビルボアから逃げ出した。

 当然、逃げる獲物を黙って見ている捕食者など居る筈もなく。デビルボアは逃げ出した少女を追いかけ始めたのだった。


「ヤバいヤバいヤバい! どうしよどうしよどうしよぉ!」

「コッケ!」

「ブモォオオオォオォォォオオオォ!!!」


 木々の合間をすり抜けて逃げる少女と、木々をなぎ倒しながら爆進するデビルボア。

 さっきまで捕食者側だった少女が逃げ回る羽目になるとは……これが食物連鎖ってやつですか。


「コケ〜……」


 うーん……ガチでどうしよう、この状況。見た限り少女にデビルボアと渡りあう術はなさそうだし、もちろんオレも戦えるような身体じゃない。

 だってこの身体、ニワトリだし。だってこの身体──ニワトリだし。


「あっ!?」

「コケッ!?」


 なんとか対応策を出そうと頭をひねっていると、少女が足元の倒木に躓いて倒れてしまった。

 そうなると当然、抱っこされていたオレも宙に投げ出されてしまうわけで。


「あぐぅっ!?」

「コケコケ!」


 咄嗟に羽ばたき、落下速度を弱めて無事着地してみせる。しかし、人間である少女にそんな事は無理な訳で。

 普通に地面へ倒れ込み、したたかに身体を打ち付けて悶絶してしまっている。


「ブモォオォオォ……!」

「コ……」


 獲物がもう逃げないと理解したのか、デビルボアはゆっくりとこちらに近づいてくる。

 こいつ、この見た目で知性があるタイプなのかよ。圧倒的なパワーに加えて知恵まであるとか、最強の生物じゃん。


「いっつ……!」


 脚を押さえて蹲る少女。

 そして、それを狙う巨大な獣。

 勝ち目などない、圧倒的な弱肉強食の縮図。


「コケ……」


 今なら逃げられるだろう。

 この身体は小さい上に、かなりのスピードが出せる。

 少女を囮にすれば、自分だけは助かるだろう。


「──コケェェェエエェエエェッ!!!」

「ブモッ!?」


 だけど、残念。

 そうするつもりなら、とっくの昔にやってるんだわ。

 逃げ始める時に言ったよな──寝覚めが悪いのが一番キライなんだよ、オレは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る