ニワトリがフライドチキンになると思うなよ!

九龍城砦

いきなり食われそうになるの何とかならんか?

小さな、ほんの小さな悪意と本能。

それをありったけの善性と理性で包み込み、形作ったものが人間と呼ばれる生き物だ──ラビット・ウールマン



◆◆◆◆



「まてぇぇぇっ!!! 肉ぅぅぅっ!!!」

「コケーッ!?!?!?」


 えー、突然ですが命の危機です。

 なんでかって? 見ればわかるだろうがよ! 腹ペコの現地人に襲われてるからだよ!


「このっ! くそっ! こいつ!」

「コッ、コッ、コケーッ!?」


 トラックに撥ねられたと思ったら、見知らぬ森にひとりぼっちだし! その上、身体はちっこくなって言葉も喋れないし! どうなってんだマジで!?

 責任者! 責任者を連れてこーい! そんでもって一発ぶん殴らせろ!

 いや、殴るための拳はもう無いんですけどね! ハハハ──言ってる場合かぁ!


「すばしっこいなぁ! このっ、このぉっ!」

「コケーッ!」


 野性味あふれる所作で追いすがるオレンジ髪の現地人少女を、ギリギリで躱して逃げまくる。

 ここが森の中なのも幸いした。草や木を利用して逃げ回れば、平原よりは多少生存率が向上するからな。


「はぁ、はっ……く、くっそぉ……ちょこまかとぉ……!」

「コケ?」


 そうやって数分ほど逃げ回っていると、唐突に少女の勢いが衰えてきた。

 息は荒いし、目の焦点は合ってないし、だいぶヤバそうな感じがする。ぶっちゃけて言うと、今にも倒れそうな感じ。


「はぁ、はぁ──あっ」

「コッ」


 そんな事を思った直後、少女はパタリと地面に倒れ込んでしまった。

 マジで限界だったっぽいな。


「うぅ〜……」


 もう襲われる心配は無くなったみたいなので、足を止めて少女の元へ引き返してみる。

 普通にしてるとかなりの美少女だな、この子。さっきの尋常じゃない顔芸から察するに、相当な空腹状態だったようだ。


「コケ」


 顔だけでなく、他の場所にも目を移してみる。現代日本ではまずお目にかかれないような、露出度の高い──否、非常に動きやすそうな服装をしていた。

 腕や脚を最低限保護するヒラヒラした布地に、胸と股間をピンポイントで隠すマイクロビキニみたいな服。

 ぶっちゃけ、現代日本で着てれば痴女確定な服装だった。やはりココは異世界で確定らしいな。


「……おなか……すいた……」

「コケー……」


 んなこと言われてもな……パッと見、この森に食料らしいものは見当たらないしなぁ。

 せいぜい、地面に落ちてる小さなベリーらしき木の実くらいだろう。それも、腹の足しになるとは思えない程度の大きさでしかないが。


「コケ?」


 なんて思いながら首を傾げていると、何やら大きな地響きが聞こえてきた。

 ズン、ズン、と一定の間隔で響いてきている。


「コッ……!」

「んぇ?」


 このままココに居たらヤバいと、野生の本能が告げている。くちばしの先で少女の頭をつっつき、むりやり意識を覚醒させてやった。

 食べられそうにはなったが、それはそれとして置いていく訳にもいくまい。自分一人だけ逃げるとか、助かったとしてもすこぶる寝覚めが悪くなる。


「あ──やっと捕まえた肉〜〜〜!!!」

「コケー!?!?!?」


 起こした瞬間コレかよ! おいやめろ離せ! 今はこんな事してる場合じゃないんだって!

 今すぐ逃げないと、めちゃくちゃヤバい事態が──


「ブモォォォ……!」

「へ?」

「コケ?」


 バキバキと木々をなぎ倒しながら、ガサガサと草をかき分けながら、巨大すぎる獣が姿を現す。

 大きな牙に、山のような巨躯。細部こそ違うが、オレの記憶にあるイノシシと似たような姿をした獣が──そこに居た。

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