第7話 殴っていいのは、殴られる覚悟のある奴だけ。


「あなたたちが選んだのは、私を敵に回すこと。そういうことで、いいのよね?」


 その言葉が宮廷内に響き渡る。アリシアの言葉と共に、目の前の大きな壁がえぐれ、ひび割れ、背後にある鐘楼が崩れ去る音が鳴り響く。誰もが息を呑み、恐怖に震える中、アリシアは冷徹な目でその光景を見守っていた。何も感じていないように、ただ静かに。


「さて、始めましょうか」


 アリシアは悠然と微笑みながら、王座に腰を掛け、足を組んで目の前の者たちを見下ろした。その姿はまるで、無敵の支配者のようだった。


「私の力を過小評価していたみたいね」


 冷徹な視線を王太子に向け、彼が顔を真っ赤にして怒りを爆発させようとするのを制するように、アリシアは一言発した。


「私を処刑するなんて、無駄なことよ。お前たちが考えているほど、私は簡単に倒せる存在じゃないわ」


 彼女の言葉が宮廷内に響き渡る。その一言に、王太子も国王も、周囲の者たちも一瞬凍りついた。


 アリシアは片手で剣をもてあそびながら、無言で国王の目の前まで歩み寄る。


その足音が、まるで静寂の中で鳴る鐘のように響く。国王が震える手で王冠を押さえようとする間もなく、アリシアは剣で一振り、ズレた王冠を取り払った。


「ねぇ知ってる? 殴っていいのは、殴られる覚悟のある奴だけ、ってことを」


 国王は恐怖のあまり悲鳴を上げた。王太子もまた顔を真っ青にしてアリシアを見つめる。しかし、アリシアはその反応に微動だにせず、ポイっと手にした王冠を背後に放り投げた。王冠は壁にあたって跳ね返ると床に落ちる。瓦礫の脇を通り抜け、空虚な音を立てて転がりながら、やがて執着を帯びたようにアリシアのすぐ足元で止まった。


「くだらない。実にくだらないわ」


 アリシアは冷たく呟き、ゆっくりと王座を降りてきた。その歩みが静寂を支配し、従者たちは恐怖に震えながら後退していく。彼女が一歩踏み出すごとに、その圧倒的な力を感じていた。


 王太子は震える声で叫ぶが、その声の裏には怒りと恐怖が入り混じっている。


「お前は……! 魔女め!」


 アリシアはその言葉を無視し、王太子の前に立つとふっと微笑みかけた。


「魔女? それが何? ご覧の通り魔女だけど、何か問題でも?」


 王座を支配することに満足したアリシアは、足元の王冠を右足でこつん、と軽く蹴る。


「これが、お前たちの象徴だったのよね。恥ずかしいわ。こんなものに振り回されて、無駄に生きてきたのね」


 その言葉が冷たく宮廷内に響き渡ると、空気が一層凍りついた。国王はそのまま膝をついて崩れ落ち、王太子も言葉を失ってただ茫然とアリシアを見つめることしかできなかった。


 アリシアは何も言わず、ただゆっくりと歩き出す。次に視線を向けた先には、恐怖で青ざめた国王の姿があった。






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