第6話 たった数人で私に勝てるとでも思ったの?

 国王の号令が響く。


「であえ、であえ! 魔女を討ち取れ!」


 その言葉に反応した騎士たちが、一斉にアリシアへとにじり寄っていく。彼らの目には決死の覚悟が宿り、手には鋭い剣が握られていた。


 アリシアは指先の感覚を確認するように、握ったり開いたりしながら呆れたように肩をすくめる。


「私の力を封じたつもりだったのかしら? そんなもの、最初から通用しないのに」


 アリシアのよく通る声が空間中に響き渡る。その言葉は鋭く、しかしどこか愉快そうな響きも含まれていた。


「魔女め! やはりお前は害悪だ!」


 セドリックは、怒りを爆発させながら叫ぶが、その声はすでに力を失い、空気を切り裂くだけのものになっていた。


「何をしている! 早く魔女を捕まえろ!」

「バカね。無駄よ」


 アリシアは片手を虚空に差し出し、一瞥もせずに指を弾いた。その瞬間、青白い炎のような光が瞬き、唸るような風となって騎士たちの体を巻き上げ、無慈悲に壁に叩きつけた。その姿はまるで人形のようだった。


「馬鹿な!?封印具は魔力を封じるだけでなく、吸い取る力もあったはずだ!!」


 国王の驚愕した叫びが、虚しく広間に響き渡る。その目は、アリシアの力に圧倒され、理解が追いつかない様子だ。彼が信じていた封印具は、ただの道具に過ぎないことが露呈した瞬間だった。


 アリシアは無表情でその光景を見つめ、冷たく微笑みながら言った。


「あんな骨董品ガラクタで私の魔力を封じられると思っているなんて、なんて浅はかなの」


 アリシアは国王を一瞥し、冷たく微笑む。


「そんなに私と戦いたいなら、そうね。魔法を使わないでいてあげるわ」


 足元に転がっていた一本の剣を、アリシアは軽々と拾い上げる。その動きは、まるで踊るように優雅で、剣を握った手にも緊張感は微塵もなかった。


「やれ!魔女を討ち取れ!!」


 声を号令として騎士たちが一斉に切り込んでくる。それに対してアリシアは、まるで遊びのように足を一歩踏み出し、刃を軽く横に振ると、瞬時に一人の騎士が倒れる。その動きに、周囲の者たちは一瞬息を呑んだ。


「っ!?」


 驚きの声を上げる間もなく、アリシアは次の敵を迎え撃つ。彼女の剣が、またも鋭く振り下ろされ、躊躇して緩んだ敵の剣を彼方に弾き飛ばす。そのまま逆手で斬りつけた剣先が、相手の胸をかすめ、戦意を失わせる。


「たった数人で私に勝てるとでも思ったの?」


 アリシアの言葉は冷徹で、まるで勝利を確信しているかのように響いた。だが、その隙を突こうと別の騎士がアリシアの背後から攻撃を仕掛ける。


 だが、彼女は素早く身をかわし、まるで風のように流れる動きで敵の背後を取る。そして、剣を一閃。


「遅いわ」


 風になびく黒髪の下で魔女に相応しい赤い瞳が妖しく光る。


 その瞬間、騎士は地面に倒れ、剣を失って目の前でひれ伏す。


 周囲の騎士たちはその光景を目の当たりにし、戦意を失い、戦いを続ける気力すら奪われていった。




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