第3話 魔力さえ封じれば、勝てる??????


 計画は緻密に組まれていた。


 まず、王宮の地下でひっそりと封印されていた「大賢者の封印具」が復元された。


 それは、アリシアの魔力を完全に無効化する代物で、外すためには物理的な力が必要だった。非力な女の力では手枷状の封印具を取り外すことはできない。この封印具を付けた時点で彼女の敗北は確定している。


「これであの魔女も終わりだ」


 王太子のセドリックは、暗い微笑みを浮かべながら呟いた。


 もし、アリシアから魔力を奪えれば、もう怖いものはない。力を持たない彼女は、ただの女に過ぎない。親衛隊ならば、簡単に抑え込めるはずだった。


 父上、とセドリックは呼び掛けた。


「魔女の力さえ封じれば、彼女は私たちに逆らうことはできない」


 国王は頷き、計画の完成を待ちわびた。


 それが大きな誤算だった。


 王太子は次に、アリシアを招待するために豪華な宴を用意した。王宮の大広間に華やかな装飾が施され、アリシアのために最高の料理と酒が振る舞われた。


「今夜は私を祝ってくれるの?」


 アリシアは嬉しそうに微笑みながら、セドリックを見つめた。その瞳には、少しの好奇心と期待が浮かんでいる。


 セドリックは軽く頷き、優雅にワイングラスを手に取った。


「もちろんだとも、アリシア。君の功績を讃えるために、これ以上の宴はない。君こそ、我々の英雄だ」


 その言葉に、アリシアは少し照れたように笑いながら、グラスを手に取った。


「英雄だなんて、大げさね。でも、まあ、あなたがそう言うなら……」


 彼女は少し肩をすくめ、ワインを一口飲み干す。セドリックはその様子を見逃すことなく、微笑みを浮かべながら、もう一度グラスにワインを注ぐ。


「もっと飲んで、アリシア。今夜は君のための夜だ」


 ワインの味も、セドリックの声も、どこか遠くに感じられる。


 セドリックの顔がぼやけていく中、アリシアはとうとう目を閉じてしまった。




 ***************




 翌朝、アリシアが目を覚ました時、全てが異なっていた。


 頭の中がぼんやりとして、身体の自由も利かない。目を開けると、いつもと違う薄暗い空間に囲まれていることに気づく。


 冷たい石の床の上に寝かされているのは、まるで悪夢の中にいるようだ。手首に不快な感触が伝わると、彼女はそれを確認するためにゆっくりと視線を下ろした。


「……ここは?」


 声が出ない。身体の重さが彼女を制し、思うように動けない。アリシアは必死に立ち上がろうとするが、手首に感じる冷たい金属が動きを阻む。手枷だとすぐにわかった。


 牢獄のような場所で、彼女の両手には、罪人が着けられるような重い手枷がしっかりと嵌められている。


 その瞬間、魔力が手枷に吸い寄せられ、流れ込んでいくのがわかった。


「何これ…?」


 その言葉が喉から絞り出される。


 と、その時、重い扉が軋む音を立てて開く。アリシアが目を凝らすと、そこに立っていたのはセドリックだった。彼の冷徹な微笑みが、アリシアに冷たいものを感じさせる。


「目を覚ましたか、アリシア」


 アリシアは無表情で彼を見上げた。怒りも恐れもない、冷静な視線でただ彼を見つめる。


「さて、始めるとするか」


 セドリックは指を鳴らし、背後に立つ衛兵たちが一斉に動き出す。


 だが、アリシアは微笑んだ。彼女の唇がわずかに上がる。


「あなたたち、私を甘く見ているわね」


 その言葉は、まるで冷笑のように響き渡った。


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