第2話 さて、これからどうしようか……
――魔法と呼ばれる力が存在する。
それは、体内に巡る血液のように循環する魔力と呼ばれるオーラを用いれば、誰しもが行使する事の出来る特別な力。
だからこそ、争いや略奪というのは……馬鹿が力を持ってしまうからこそ、思っているよりも簡単に起きてしまう。
そんな馬鹿を狩るのが、私――
「
右耳に着けた魔道通信石と呼ばれる魔道具を用いて、私はとある人物とコンタクトを取る為に話しかける。
すると、一呼吸すらする間もなく男の声が耳の中に入ってきた。
『ご苦労さんだヨ😁✨絡繰りチャン✋。いや~、やっぱ今猛威💥💥を振るっている盗賊団ランキング🏆個人的一位のクロスすら、たった一人で殲滅🔪 🩸しちゃうなんテっ‼️いやいや🫣その強さ💪恐れ慄き敬っちゃうヨ~😘❤️』
うっ、どうしようもう既に通信を切りたい……。
気持ち悪いというか、なんというか……言い表せないような不快感を感じてしまう。
あと同時に寒気と吐き気とストレスも湧いてくる。
『あれアレ❓今なんだかすっごく罵倒されたような気がしたんだけど😢🤔気のせいだよネ(´;ω;`)❓💦』
なまら勘が鋭いと、かえって生きにくいのかもしれない。
まぁあのおっさんにとってはそれが良いのかもしれないけど。
「うん、気のせいだと思うよ。それよりガリウス、死体はどうする」
『あぁ、それならこっちで勝手に処理しておくから放置しといていいよ〜』
「ふ~んあっそうじゃあさよなら」
『え!?報告する事それだけな――――』
何か言っていたような気がするけど、長時間あのおっさんと通話する程の精神性を持っていない私はそそくさと通信を切る。
今みたいに普通に会話してくれればいいんだけどな。
――――今私が話していた人間の名前はガリウス・フラグリスカ。
私が所属する暗殺者組織“カルミラ”の現トップにして絶対的な指示者。
彼の意向が組織全体の意向という言葉もあるくらい絶対的な立場に君臨する人間だ。
「まっ、本人からはそんな威厳微塵も感じないけど」
実際凄い人なのかもしれないけど、興味はない。
「…………さて」
目的は終わった。
死体も放置していいとなったら、後はこの場を去るだけで私の仕事は終わりだ。
暗殺者の任務、その達成基準は目的を終わらせ、報酬を受け取るまで。
その間に死んでしまえば、意味はない。
これはガリウスの言葉だ。
その言葉を聞いた時、私は思ったね。
いや、誰かを殺せって任務なら、対象を殺した時点で任務は達成したって事になるだろと。
その間に誰かに見つかって自分が殺されたとしても、対象を殺しているのなら別にいいんじゃないかと。
ただ、そんな反論をわざわざするのはきっと野暮と呼ばれるものなのだろう。
その事をなんとなく分かっている私は、あえて口に出す事はない。
そんなどうでもいい事を思いながら、踵を返そうとした時だった。
「ひっぐ……」
焚火の音と風の音の合間を縫うように、私の耳には明確に女の子の鳴き声が聞こえてきた。
「…………………………………………」
――分かってる。
この盗賊達が今日村を焼き、人を殺し、子供を攫ったというのは。
それは先程、盗み聞きをしている最中に知った事実だ。
だけど、それを知っていたとして。
彼女を助け出したとして。
その後は、一体どうしろというのだろうか。
「…………関係ない」
彼女の故郷である村はもう消えた。
最早、あの子には帰る場所も身よりも無い。
そんな彼女を助け出したとして、自分に何が出来ると?
「何も出来ない」
誰かを助けるというのは、誰かと関わりを持つというのは、いずれもそれ相応の責任や事態が自分自身にのしかかってくるという事。
それらを理解していながら、誰かに手を差し伸べる事の出来る人間は――誰かの為に全力で責務を全うできる正義のヒーローだけ。
生憎と、私は私だけのヒーローで一生あり続けると決めている。
他者にかまけている暇も理由も私には一切ない。
「誰か、助けて…………」
「…………………………………………」
何故だろうか、彼女の声は――私の耳によく通った。
震えていて、か細くて、今にも消えそうなろうそくの火のような声なのに。
なまら耳が良いと、かえって生きにくいのかもしれない。
「っ、……………………」
――――気が付けば、私の足は馬車の荷台へと向かっていた。
馬車に乗って逃走されるのを防ぐべく、あらかじめ馬車ハーネスを私の糸で切っていた為、馬が逃げていても荷台はそのままそこにあった。
そうして、数秒かけて荷台へと歩みを進め、中を覗く。
するとそこには、冷たく黒い鉄で作られた檻が一つ。
その中に、少女は居た。
私の髪色とは180度違う白くただ一点の穢れすら無い白髪のボブ。
そして華奢な手足と、圧倒的な完成度を誇るはまだ幼さが残るあどけない風貌。
そんな彼女を見て、私は思わず目を見開いて驚いた。
だが、それは何も美しいからというわけではない。
いや、正確に言えばそれも多少含まれているかもしれないが、それよりも目を見張ったのは、彼女が有するまるで底が見えない圧倒的な魔力量――それを目の当たりにしてしまったが故だった。
「ぅっ、」
彼女が私の存在に気づき、コチラに目を向けて檻の奥へと距離を取る。
その瞳は確かに震えていて、恐怖に染まっていて――精一杯涙を抑え込んでいると分かった。
「…………あー、、、」
そんな彼女の様子に、言葉が詰まる。
貴方を助けに来た救世主です――なんて口が回ればコミュニケーションとしては上出来なんだろうけど、そんな上手いセリフ冗談でも口に出せないのが私だ。
「助けてって言ってたから、助けに来た人……って感じ」
「え…………」
少女の瞳に、一筋の希望が宿ったのが分かった。
あまり、そういう瞳を向けられるのは嫌いではあるけど……今回ばかりはしょうがない。
それに、私も同じ状況だったらそんな反応をしちゃうだろうし。
「動かないで」
私は慣れた手つきで、糸を操り――鉄で出来た檻すらも容易に粉微塵へと変貌させる。
「もう、動いても大丈夫」
目を閉じ、頭を手で覆い体を丸める彼女に、私は言葉を投げかける。
その言葉を聞いた彼女は、ゆっくりと目を開け、最初に私の方を見ると、キョロキョロと辺りを見渡した。
「うそ……」
最初に出た言葉は、驚き。
それもそうだろう、音も無く鉄の檻が粉微塵と化している状況を見れば、女の子であれば誰だって驚く。
…………さて、これからどうしようか。
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