第3話 メドゥーサ
皆さんは「メドゥーサ」という生物を知っているだろうか。そう、髪がヘビで目を見ると石化してしまう怪物だ。メドゥーサは神話の中の生物だとずっと思っていた。のだが…今メドゥーサの直系血族だという少女が目の前にいる。
事は昨日の家族全員での夕食の場から始まった。父で皇帝のアクレー、母のエピオナ皇后、第1皇子レイリオン、あとユーレピオスと俺。レイリオンは年が離れていて15歳。病弱で部屋からあまり出られないため肌がとても白く、百合のような儚げで美しい雰囲気を纏っている。俺とユー兄様は母のとても深い緑色の髪を受け継いでいるが、レイリオンは父の白髪を受け継いでいる。逆に目は母の緑眼、ユー兄様は母方の祖父(先代皇帝)の碧眼、俺は父親譲りの金色の瞳だ。
夕食を食べ始めた最初のほうは国の近況などの何気ない世間話と、まだ俺を心配した会話だけだったが、父が急に改まった様子で持っていたナイフとフォークを置いた。
「先ほど便りが届いたのだが、なんとゴルゴン公爵家が明日宮殿に来るそうだ。さすがに急すぎると断ろうとしたのだが、もう出発しているようで…。特別なもてなしは要らないと書いてあったが、さすがにいつも通りにするわけにはいかないから各自急いで明日着る服を用意したりしてくれ。」
少しみんなの顔が強張ったように見えた。それにしても突然皇帝を尋ねるとは失礼だな。とりあえずどんな奴か尋ねてみる。
「ゴルゴン家とはだれですか??」
「ゴルゴン一族は『メドゥーサ様』の直系血族にあたるわ。ゴルゴン公爵家にはちょうどあなたと同じ年頃の娘がいて、この間アトゥーの遊び相手にどうかと言われたから『今度お会いしましょう』と社交辞令で答えたんだけれど…。まさかこんなに早く来るなんて…。」
メドゥーサ???今メドゥーサと言ったのか???あの見たやつを石にするメドゥーサ?????しかも様付けした…??たくさん聞きたいことがあったが、メドゥーサという単語ですっかり頭がパンクしてしまって、その場では何も聞けなかった。
夕食を終えた後、俺はレイリオン兄様の元に向かった。彼はとても頭がいい。次期皇帝になるための教育を受けているからきっとゴルゴン公爵家のこともよく知っているはずだ。最初は両親に聞こうと思ったのだが、明日の準備できっと忙しいだろう。
「レイにいさま、ゴルゴンこうしゃくけについてしりたいです。おしえてください!」
「アトゥーがそちらから訪ねてくるなんて珍しいね。ゴルゴン一族の何が知りたいんだい?」
「なんでゴルゴンっていうなまえをきいたときにみんなビクってなったのかがしりたいです!」
「…よく分かったね。良いよ、僕の知ってることを教えてあげる。メドゥーサについての物語は、この国の成り立ちにも関わってくるんだ。」
昔々、サペントラ帝国が誕生するずっと前、この辺一帯は1つの国でありゴルゴン家が統治していました。つまりゴルゴン家は元々この地の王家でした。王には美しい三人娘がおり王が亡くなる直前、後継者として最も秀でていた末娘のメドゥーサが選ばれました。姉達もメドゥーサが相応しいと思っていたので彼女を心から応援しており、それはそれは幸せな暮らしを送っていたそうです。
ある時、メドゥーサは隣国の王と恋に落ちました。2人は深く愛し合っていましたが、密かにその王を慕っていた敵国の女王に呪いをかけられてしまいます。その呪いのせいでメドゥーサの髪は蛇になり、目には見たものを石化する魔力を宿しました。これに抗議した姉達は、手出しできないように弱りきった醜い老婆に姿を変えられ、「死にそうだけど決して死ねない」という長い苦しみを与えられました。
敵国の女王は怪物となってしまったメドゥーサの首に莫大な懸賞金をかけつつ、隣国の王がメドゥーサを助けられないように戦争を仕掛け、城を占拠・王を監禁します。
その後1人の青年が敵国の女王の後押しを受けてメドゥーサの首をとり、人を殺す力がある動脈血と死者を蘇生させる静脈血を2つの瓶に分けて入れて、首と共に敵国の女王に捧げました。そして今から560年ほど前、その女王の死後2つの瓶は行方不明になっていましたが、人を生き返らせる静脈血の方は偉大な医者であるアレクシス・サペントラによって発見され大いに人々のために役立てられました。民衆の支持を得た彼はこの国を建てた後、「メドゥーサには隣国の王との隠された息子がいた」という情報を得て細々と血を繋いでいたゴルゴン一族を見つけ出し、メドゥーサの血で何人もの人を救えたお礼に公爵位を授けたのです。
そして時が経つにつれ、ゴルゴン公爵家は「メドゥーサの血のおかげでサペントラ帝国は誕生した。」ということを鼻にかけて皇族に圧をかけるようになりました。本人でないにも関わらず…。しかもゴルゴン一族は国内トップシェアで高性能な医療器具や薬、医師の派遣サービス等を提供しており、公爵家を潰したり敵に回したりすれば大混乱に陥ります。だから皇族はゴルゴン公爵家と仲良くするしかないのです。
「…ということで皇族は言いなりになるしかないということさ。敵に回せば病気の国民が増え、皇帝は何をやっているんだと批判が生まれる。その世論に乗っかって革命軍として戦争を起こせば、新たな皇帝になれる可能性がある。ゴルゴン公爵家はそれほど強大な力を持っているんだ。」
……まじか。俺らはそんな奴らと明日会わなければいけないのか。レイリオンが不快極まりないという表情でため息をつき、再び口を開く。
「それに、アトゥーの遊び相手として娘を差し出すということは…いずれ結婚させようとしてるんだろう。」
は……結婚?????
あまりの衝撃で頭を鉄で殴られたような感覚に陥った。強烈なめまいに襲われながら、どうか明日がこないでくれと祈る。レイリオンが俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。俺の意識はそこで途切れた。
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第3話お読みいただきありがとうございました!
察した方もいると思いますが、このお話はギリシア神話などを参考にしたりしています。メドゥーサの話とかそうです。
ちなみにこの物語で蛇を意味している「ナーガ」という言葉はインド神話における蛇の精霊や蛇神のことを言います。ヘビの神様の総称として使われている言葉のようです。
興味があったら調べてみてください〜!
それでは第4話をゆっくりお待ち下さい_(_^_)_
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