第27話 医務室の壁は破壊された



 恐怖と不安が募るなか、呼ばれた医務室に私はびくびくしながら入室した

 今までも医務室には掃除とかでしか入ることはなかったし、部屋にほのかに香る薬品の匂いが余計に恐怖を駆り立てるようで普通に怖い。

 「失礼します」と小さくかけた声の先に丸椅子に足を組んで座るキラキラオーラ発生中のキトワさんが見える



「やぁきたね由羅嬢!遠慮せずとも僕の正面へと座ってくれてかまわないよ!」

「は、はい…」



 ビシッと指差されたキトワさんの正面にある丸椅子に座ってふと視界に入ってきたベッドから誰かの手がのぞいていた

 思わずヒッと肩を揺らして改めて見てみればそれはゲンナイさんの手のようで…よくよく見ればベッドで眠っているだけのようでホッと安堵する。

 その隣のベッドではナズナさんが不機嫌そうに横になっていてその腕からは点滴の管のようなものが伸びていた



「おっとすまない僕としたことが配慮が足りなかったね!そこに転がる男子諸君が気になるようだ!ナズナ、ゲンナイを連れて出て行ってくれたまえ!レディーの問診を覗こうなんて変態的だよモテないよ!」

「うるせぇなお前は!いちいちセリフが長ぇんだよ!!」

「だ、大丈夫です!」



 動こうとしたナズナさんを慌ててとめる



「点滴なんてしてるのに寝てるゲンナイさんを運ぶなんて無理だし本当大丈夫です私はちょっと驚いただけなので」

「どっちにしても出てく気はねーよ。コイツがお前に変なことしねーように見張らなきゃいけねーからな」



 横になっていた体を起こしてベッドに胡坐をかくように座ったナズナさんにキトワさんが「ふむ」と何かを考えこんでいた



「つまり、ナズナは由羅嬢の裸体が見たい、とそういうことだね!」

「へ・・・」

「はぁあああ!?なんっでそうなるんだよ!!どういう思考回路だてめぇは!!」

「照れなくてもいいんだよナズナ。僕はわかっている!あぁわかっているともナズナが見張りとかこつけてあわよくば由羅嬢のあられもない姿を見れればと心の中で鼻の下を伸ばしていることは!だが侮ることなかれ、僕はそんなナズナの邪な心ごと受け止める覚悟はとうの昔にあるからね!さぁナズナ遠慮はいらない由羅嬢の裸体は見せることはできないが、この僕のすべてを見せてあげようではないか!!」



 ガバリと白衣をオープンにしてナズナさんの前で広げてみせたキトワさんにナズナさんはげっそりと頬をこけさせると「気分が悪い」と点滴台とゲンナイさんを器用に担いで医務室から出て行ってしまった


 キトワさんに対する反論の意思はとっくに折れているらしい


 そんなナズナさんに「つれないね!」と高らかに笑ったキトワさんは私の前に座り直した



「さて、これで気に病む事柄はなくなったね!由羅嬢、診察を始めようか」



 その言葉にひょっとして私に気を使ってくれたのだろうか…と私は小さく笑った



「それにしてもナズナの耳ならばこの建物のどこにいようとすべての会話は筒抜けだとわかっているのにわざわざ同じ部屋で見張る意味ははたしてなんなのだろうね!やはり単純に由羅嬢の裸体が見たかっただけかもしれないね!」



 スケベだね!とキトワさんが笑えば隣の壁がドンと蹴られたような音と「うるせぇんだよ!」と叫ぶナズナさんの声が壁越しに聞こえ、隣の部屋にいるのかと把握する



「心配はいらないよプリンセス。裸体裸体とナズナがはしゃいでいるけれど、僕は君の産まれたままの姿を見ずとも君の体のすべてを知り尽くしているからね」



 すっと顎に手を添えられて交わった視線とキトワさんの言葉に背筋がなんだかゾワッとおののいた



「おや、蛇に睨まれた蛙が如く固まってしまったね。安心したまえ君は服を着たままその身を僕にませるだけさ。言っただろう手取り足取り教えてあげると。君の緊張と不安を僕が根こそぎ拭い去ってあげるよ。さぁ顔をあげて?そういい子だ。じゃあ次は口を開けてごらん?あぁだめだよそんなんじゃ僕のコレがとても入らないからね?もっと大きく開けて…そう、いい子だ。とっても上手だね…困ったな、君のこんな姿を見たら僕だって普通ではいられないよ。君のその期待に応えるためにも僕のこの反り立つ銀のーー」

「いちいち卑猥なんだよてめぇえはぁああ!!!」



 我慢できないとばかりに壁を突き破って飛び出してきたナズナさんはそのままキトワさんの頭上に点滴スタンドをふり落とした。

 実際には舌圧子で口の中を見ていただけで普通の診察だったのだけどキトワさんのセリフの卑猥さにナズナさんは我慢ができなかったらしい


 床にめり込んだキトワさんは鼻を打ったのか手で押さえながら起き上がった



「なにをするんだいナズナ!鼻血が出たよ!」

「我慢したほうだろどう考えても!鼻血だけで済んでマシだと感謝しやがれ!だれがなにではしゃいでんだよ!普通に黙って診察することができねぇのかてめぇは!!」



 腕から点滴を引っこ抜きながら叫ぶナズナさんとキトワさんの二人によるギャーギャーと始まってしまった口論はその後一時間ほど続き、結局私の診察は

 口にガムテープを貼られたキトワさんによってナズナさんとサダネさん達が見張る中行われた



「ふがふごふが(とても息がしづらい)」

「そのまま窒息しろ」

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