第28話 寝起きドッキリ2

 キトワさんに診察を受けた次の日の朝ーー。

 なんだか体の片側が温かい…。と身に覚えのある感覚に眠りから意識が浮上した。


 まさかまたナス子さんが添い寝でもしてるのだろうか、と横を見ればーー

 

 ーーそこにはキラキラとしたイケメンの寝顔…もとい、キトワさんの寝顔が至近距離で存在していた



「…!…っぎゃぁあああああ!!!」



「由羅!どうし…」

「由羅さん!何が…」



 急いできてくれたゲンナイさんとサダネさんは、バクバクと煩い心臓を押さえながら半泣きの私と、私の布団ですやすやと眠るキトワさんを見ると、すべてを把握したようで…


 二人は無言のままキトワさんの顔面を

 ぐしゃりと踏みつけていた



「ぶふぅ!!!」



 畳が割れるほど強く踏みつけられたらしいキトワさんは、切ない悲鳴のあと気絶したのか白目をむいていて

 二人はそんなキトワさんを雑に掴むと引きずって部屋を出ていった



「悪かったな由羅ちゃん」

「よく言ってきかせておきますので」



 にっこりと笑った二人のオーラがまがまがしく黒かったのはきっと気のせいではないけれど…

 私もこの驚きでバクバクと煩い心臓を鎮めようとそれどころではなかった






ーーー






「だって仕方のないことだったんだよ。いよいよ冬を迎える昨今。人肌が恋しくなるのは世の常だろう?ナズナとナス子は帰ってしまったし。サダネとゲンナイはなにやら仕事をしているし…唯一布団を共にしてくれるのが由羅嬢しかいなかったのだから」


「寝ている女人の部屋に無断で入り、ましてや布団を共にするなど、おおよそ大人の為すべき所業とは思えません。」

「この場で今すぐ腹を切るか、俺に背中を切られるか、どちらかを選びなキトワさん。どちらの介錯も俺がしてやる」



 心臓も落ち着き朝の身支度を済ませてから一階へ降りると、居間が修羅場と化していた…。


 正座をさせられているキトワさんの前に仁王立ちする二人の手には、真っ白い死装束のような着物と。どこから持ってきたのか日本刀のようなものが握られていてー


 ーこのままではキトワさんが切腹になる。と私は慌てて止めに入る



「ちょ、ちょっと待ってください二人とも落ち着いて!」


「由羅嬢!よく来てくれた!君からもこのわからず屋の二人になんとか言ってくれたまえ!」



 ワッと分かりやすいウソ泣きをしながら抱き着いて来ようとしたキトワさんに驚いたものの、その体はサダネさんとゲンナイさんによって再び床にめり込んだ



「いい加減にしろよキトワさん。由羅に近づくなってさっき言ったばっかだろ」

「しまいには冗談で済まない事もあると、そろそろ理解してください」

「むがっ!」

「あの、二人とも落ち着いて…」



 今にも処刑を行おうとするような雰囲気を醸す二人をなんとか落ち着かせようとした時だったーー



「どんな状況だよこりゃ」



 ーータイミングが良いのか悪いのか「お邪魔します」と入ってきたトビさんは、キトワさんを踏みつける二人と、その傍らで苦笑いをする私を見て大きく首を傾げていた






ーーーーー






「キトワの奇行なんていつもの事だろぃ。今更何言っても聞きやしねぇよ」



 事の顛末を聞いたトビさんは呆れたようにサダネさんとゲンナイさんを見ると「二人共らしくないぜぃ」と付け加えた



「ですが今回は由羅さんが被害を被ったので、その、目に余るというか…」

「まぁちょっと冷静さはかけていたかもな…」



 些かやりすぎた、と反省したのか二人の声は小さくなる



「それもこれも二人とも由羅嬢を好いてのことだからね!決して悪気があったわけではないんだよ。今回の件この僕に免じて彼らを許してやってくれないか由羅嬢!」


「余計な事を言わないでください」

「許してもらうのはお前だ」



 ーメリっとキトワさんの顔面が今度は壁にめり込み、キラキラとしたイケメンフェイスはもはやパンパンに腫れ上がっている



「…話が進まねぇな。キトワ、お前は今すぐ時成様の所へ行ってこい。今イクマがいるが次はお前をお呼びだぜぃ」

「おや?そうなのかい?新しいお達しかな?ならばすぐに行かねばね」



 「では!」と颯爽と去っていったキトワさんに嵐が去ったと息をついた。



「それでトビさん、報告書か?」



 疲れたように溜め息のあとゲンナイさんが顔をあげて、トビさんは頷く



「それもあるっちゃあるが。俺もさっき時成様から新たなお達しをもらってねぃ」

「なんですか?」

「ミツドナの街近くの森に異形の目撃情報が出たんで調査に向かえってんだが…」

「調査か…ならナズナを呼んでこようか?」

「いや、今回時成様は調査に向かうメンバーを指名された」

「指名とは珍しいですね。誰ですか?」



 サダネさんの質問に少し言いづらそうにトビさんは私を見てきて嫌な予感がした。え、まさか…



「時成様は由羅さんを指名されたんでぃ…」

「「えっ…」」



 トビさんの口から出た名前にサダネさんとゲンナイさんが面食らっている中

 私は(やっぱりかぁ)と内心納得する。

 自警団の仕事に参加させる。と時成さんがこの前言っていたしね。私的には不本意だけど…


 ミツドナの街って確か支部があるところだったよね?

 その近くの森の調査って事は…一度異形と対峙してみろ。ということも含まれてるんだろうな、ちょっといきなり無茶ぶりすぎな気がするけど時成さんだし何を言っても今更だ。

それにツジノカさんなどのまだ会っていない対象人物達にも接触しておけ。という含みもありそうだ。



「わかりました。行きます」


「…なら俺がお供します。道中は熊などの獣も出るし。とても由羅さん一人で行けるとは思えないので」

「いや、お前は貿易の仕事あるだろサダネ。俺が行くよ」

「ゲンナイさんも自警団があるでしょう」

「数日くらいナズナだけで充分だよ」

「「……」」



 何故かお互いを見合っている二人に首を傾げる。

 調査ってだけなのに、取り合うほど魅力的な仕事なんだろうか…どっちかというと危険だと思うのに。

 まぁ二人ともたまには町を出て息抜きしたいってことなのか?



「白熱してるとこ悪ぃんだが、由羅さんのお供もすでに時成様が指名してるんで…」



 「二人は留守番。」とトビさんが告げた言葉にあからさまに肩を落とす二人を少し可哀想に思いながらも、ということは?と首を傾げる



「最低でも二人はお供に必要だってんで俺とイクマがお供にーー」

「そしてこの僕、キトワも任命されたよ今しがた!時成様からね!!」


「「「…!?」」」



 トビさんの言葉を遮って叫んだキトワさんはもう時成さんのところから帰ってきたらしい。

 目を丸くする皆の顔を見ながら少し不安になる。初めての遠出なのにメンバーが謎すぎる…


 毎日会うサダネさん達と違って、トビさんやイクマ君はあまり絡みがないし…

 まぁだからこそ、時成さんはこのメンバーを選んだのだろうけど…。


 ハートを増やせということですね、はいはい。わかりましたよ。


自信はまったくないですけどね…!

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