第26話 その感知から逃れる術はない




 翌日の昼食時のことだった


 サダネさんやナズナさん達といういつものメンバーで食事をしていると、突然スパーン!と障子が開き、そこからキラキラオーラを纏ったキトワさんが現れた



「やぁ諸君!お待ちかねのキトワがきたよ!しばらく会えなくてすまない!僕に会えなくてさぞさみしい思いをしただろう君たちが涙で濡らした枕の処理は僕にまかせてくれてかまわないよ!すでに最新羽毛枕(僕の香り付き)の制作は済んでいるからね!夕刻にはここへ届く手筈になっているから安心してくれたまえ!!」



 部屋に入り間髪入れずに高らかに叫ぶキトワさんに、びっくりするほど部屋がシーンとなったかと思うと

 「さてと」「ごちそうさん」とナズナさんとゲンナイさんが席を立った



「おっと、待ちたまえナズナ、ゲンナイ!今日は君たちの瘴気回復後の診察も兼ねての訪問なんだからね!君たちが飛び込むべきなのはそこの戸ではなくてこのキトワの胸の中であるのだと素直に喜んでいいんだよ!!」



 逃げようとする二人をガシリと掴んだキトワさんに二人が悲鳴に近いうめき声をあげる



「勘弁しろよ!ひと月に何度もお前のテンションに付き合えるほど俺様は暇じゃねーんだよ!それにこの後カスミソウで配達の仕事があるから今日は診察無理だから!」

「キトワさん俺いま寝起きで先に記憶の整理をしなきゃだから今日のところは」


「おぉっと二人ともわかりやすく嘘をついているね!体温が上がっているよ!このキトワに嘘が通じないのはわかっているのにそうするのは僕に会えた故での照れ隠しなのかな?心配はいらないよ!そんなシャイボーイの二人を受け止める懐を持ち合わせているのがこの僕キトワさ!!さぁ遠慮はいらない!いざともに行かんトキノワ医務室へ!!」



 アッハッハッハ!と嵐のような騒々しさとげっそりした二人の顔を最後にピシャリと閉められた戸を呆然と見つめる


 お米を掴んだままだった箸を口へと動かし始めた時、スパン!と再び戸が開いた



「失礼、プリンセス由羅!二人の後は君の診察もあるからね!心と体の準備を万全にしておきたまえ!なに、できなかった時はこの僕が手取り足取り一から教えて進ぜよう!安心してくれ僕はレディーにはとろけるほどやさしく接するからね!!」



 それじゃまた後程!とピシャリと閉じた戸に、食欲が失せてしまった私は箸をお皿に置いた



「由羅ちゃん、今のうちに逃げた方がいいかも~…」



 憐れむような視線を向けてくるナス子さんに同意する。キトワさんを見た瞬間逃げ出そうとした二人の気持ちが今ならわかる…。



「駄目ですよナス子さん。キトワさんは数少ない瘴気に精通した医者なんですから。由羅さんのためにもしっかり由羅さんの回復後の経過観察もしてもらわないといけません」

「確かにそうだけど~」



 「だから逃げてはいけませんよ」と念押ししてきたサダネさんに頷いて。ふと、さきほど疑問に思ったことを聞いてみた



「さっきキトワさん嘘は通じないみたいなこと言ってましたけどあれって?」

「あぁキトワさんは触れるだけで他人の体温を測れたり、他人の感情の変化などを見て感じることができるらしいです」

「へ、なんですかそれすごい」

「俺もよくは知らないんですが…」

「詳しく聞こうとしても求めた答え以上にいろいろ返ってくるから実際どうしてなのかもよくわからないよね~」



 確かに、と納得する。

 キトワさんとの会話は1に対して10も20も返ってくるからどれが本当に求めた答えなのかわからなくなりそう…



「キトワさんとまともに話ができるのなんて時成様とツジノカさんくらいしかいないよね~」

「そうですね」

「ツジノカさん…?」



 どこかで聞いたような…



「あぁ由羅さんはまだ会ったことありませんでしたね。トキノワの支部にいる方です」

「支部…確か三つ隣の町にあるんでしたっけ?」



 そうだそうだ時成さんのモニターでみた共鳴対象の一人だ!

 えーと確か支部には対象人物が二人ほどいたはず!



「馬を使えば半日ほどで着きます。今度時間があれば俺と一緒にーー」



 サダネさんが話している途中「「ぎゃぁああああ!」」と医務室の方から二人の悲痛な悲鳴が聞こえてきて台所がまたシンとした静寂に包まれた



「…由羅さん。やっぱり逃げた方がいいかもしれません」

「ついでに私たちも逃げようよ~」


「…一体どんな診察が行われているんでしょうか…?」



 恐る恐ると聞いた質問にサダネさんとナス子さんは固く口を閉じ目を逸らすだけだった。


 なにそのリアクション余計怖くなるからやめて!!

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