第23話 ヤキモキモチモキ

 少し遠くにトキノワの建物が見えてきた頃、ふいにナズナさんが足を止め私に振り返った


 なんだろうとナズナさんを見ればその顔はなにかとても言いづらい事があると物語っているように歪められていて、私も足を止める。

 様子の違うナズナさんは重そうなその口をゆっくり開いた



「お前が倒れて3日も起きなかった原因、キトワにも時成様にも聞いてみたけどまだわからないそうだ。だから、こんな状況で…頼むべきことじゃねぇんだけど…」


「なんですか?」


「もし、瘴気を浄化することでお前に負荷がないって分かったらでいいんだ。俺の姉貴を、治してやってくれ…!」



 「頼む」とナズナさんの長身のその体が私に頭を下げる。

 俺様でわがままでガキくさいナズナさんがこんな風に私に頼み事をするのはさぞ覚悟がいっただろうに、それほど大事な事なんだ。と理解して私はナズナさんの肩に手を置くとその頭を上げる。

 見えたナズナさんの瞳は僅かに揺れていた



「お姉さん、どうされたんですか?」


「…10年前、瘴気に侵されて…ずっと眠ってる」


「え…」



 衝撃の事実に驚く。それはつまり10年もの間、昏睡状態ということ?

 時成さんでも意識を掬うことができないほどの瘴気に、ナズナさんのお姉さんは呑まれてしまったということだろうか…



「時成様とキトワがなんとか命だけは繋ぎ止めてくれているけど、意識の奥深くまで侵す瘴気を浄化することは誰にも出来なかった、だからー」


「ー今すぐ行きましょう!場所はどこですか?」



 悔しそうに顔を歪めるナズナさんの言葉を遮り、手を掴み問い詰めるように聞いた私の頭にーゴンッ。とそこそこに痛いチョップが落ちてきた…



「いたい。」

「だから、お前に負荷がかからないと分かってからって言っただろうがこのバカ女!誰かの犠牲とひきかえになんて俺も姉貴も望んでねぇーんだよ!」



 こうなるならまだお前に話すんじゃなかった。と不機嫌になるナズナさんの意外な一面に面食らう。


 だって反対の立場なら、もし自分の家族や大切な人が病に侵されて、それを唯一治せる可能性のある人がいたら…私はナズナさんと同じことができるのだろうか…

 きっと大半の人が自分の家族の治療を優先させると思うのに、この人は私の身の安全を考えてくれている…



「ごめんなさい、見直しました。ナズナさん」

「見損なってたのかよ」

「女が嫌いと言ってたのにちゃんと優しいじゃないですか」

「俺様は女も男も嫌いなんだよ」

「生き辛そうですね」

「うるせぇ」



 美人のくせにガキくさいナズナさんの、わかりづらいその優しさに小さく微笑む。

 できることならナズナさんのお姉さんも早く救ってあげたい。私にそれができるのかどうかだけでも、今度時成さんに聞いてみよう。と歩きだしたナズナさんの後を追った




「何二人して楽しそうに歩いてんの~?」



 暫く歩けば、ばったりとナス子さんに遭遇し「こんにちは」と挨拶をした私の隣でナズナさんが「げ。」と嫌そうに顔を顰めていた



「んもぉ~由羅ちゃん!大変だったねぇ~!もっと早く私がかけつけてれば~由羅ちゃんのこと手取り足取り看病できてたのに~」

「お、お気持ちだけで」

「ナス子お前なんでいんだよ」

「トキノワにごはん配達中だよ~。一緒に行こ!」



 きゅるんとしたかわいい笑顔を浮かべ腕を組んできたナス子さんの勢いに負け「おっと」と体を傾ければ、すぐさま『べりっ』とナズナさんによって私とナス子さんの距離が離れた



「…なにすんの~?」

「…別に。」



 なんだかバチバチとにらみ合いを始めてしまった二人に私はどう対処しようか、と頭を悩ませる。

 …これはナズナさん…ナス子さんが私と腕を組んだから、ヤキモチ?みたいなのを妬いてくれたのだろうか?

 あからさまだったし…。



 どうやらハートが二つに増えたのは、時成さんの誤報ではないみたいだ

 少しは仲良くなれているってことかな


 ゲンナイさんに続いてナズナさんもハート二つになれたのはすごく順調なのでは?

 このままいけば早くハッピーエンドにできそうだ

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