第11話 絶世の美女(男)
「まぁ由羅の歪みの原因と、由羅から光を取り除く方法はまた私が考えておくことにするよ。どうやら時間切れのようだからね」
「え?」
「ナズナがこの家に入ってきたからね」と地下室を出ていく時成さんの背中に首を傾げる。
ナズナって確か…ゲンナイさんの相棒のような人だよね。別に物音とか声とか、何も聞こえなかったけど…
どうして来たと分かったんだろう…。と疑問に思いながらも、時成さんの後に続いて地下室から出れば、そのナズナさんらしき人物が時成さんに頭を下げていた。
「ただいま戻りました時成様。さきほどは馬鬼の追い払いに助力いただき、ありがとうございます」
「おかえりナズナ。私は何もしていないよ。」
「お疲れ様」と労う時成さんの言葉の後、下げていた頭を上げたその人に、私は驚愕を受けた。
(び、び、美女…!!)
それはまさに絶世の美女という言葉がピッタリだった。
まるで絵本や絵画の中から出てきたような、とてつもなく非現実的なほど綺麗なその人に、私は思わず見とれてしまう。
ナズナさんという名前から、女の人だとは思っていたけれど。まさかこんなにも綺麗な人だったなんて…
長くきれいな金色の髪を一つに結び、色白の肌はその頬に長い睫毛の影を落としている。
すらりと伸びた手足はまるでモデルさんのようで…自分にはとても及ばないその長身を見上げる。
(ん?)
なんだか凄く長身だ…。私より身長の高い時成さんより更に高い。
女性にしては珍しいなぁ、と感心していれば「由羅、こちらにおいで」と時成さんに呼ばれ、私はハッと意識を戻した
「誰ですかこいつは」
私を見てそう言った声は、本当に目の前の美女の形の整った唇から発せられたのか、と疑うほど低く、とても女の人の声とは思えなかった。
私はパチパチと瞬きをした後、無意識にその視線を美女の胸元へと移動させる…
「どうしてここに女がいるんです?」
眉間に皺を寄せ、不機嫌全開で憎々しく質問した美女の胸元に膨らみはなく、見事なまでにぺったんこで・・・え。待って、ということは…
「お、男の人!?」
この見た目で!?とあまりにも驚いてそう叫べば、不機嫌そうだったその顔が更に不機嫌になった。
「その反応…聞き飽きたし見飽きたな。そう、俺様は男だ。残念でしたぁ~。」
ハン!と鼻で笑ったその人の見た目とは裏腹な、幼稚な言動に反応すらできず、私はただ目の前の存在に驚く。
(嘘でしょ…)
こんなに綺麗な顔の男の人が存在するのか。
見たところ化粧をしているわけではなさそうだし、素顔でこんなに美人だなんて…でも確かに胸は平らだし、喉仏あるし、背は高いし、声も低い…
え、というか…なんなのこの場所は…。
このトキノワには顔面偏差値高い人しかいないの?イケメンしかいないの?イケメン養成所?
「ナズナ、この子は由羅だ。今朝この町にきたばかりでね。いろいろと教えてあげてくれ」
「まさか、ここで働くんですか?」
ものすごく嫌そうな顔で見下ろされ、私は少しムッとする
「そうだね。サダネやゲンナイの手伝いをと思っていたけれど、ナズナのとこの茶屋で手伝いをしてもいいかもね。」
うーん、と思案する時成さんの隣でこちらをずっと睨んでくるナズナさんを、私は負けじと睨み返す。
よくわからないけどこの人のところはやだ。茶屋っておそらくゲンナイさんと行ったアオモジさんがいるところだろうけど、その場所もアオモジさんも全然問題ないけど、このナズナさんがいるのならやだ。
サダネさんやゲンナイさんの方が優しいし、このナズナさんみたいに敵意むき出しじゃない。
「まぁ、当面慣れるまではこの本部で手伝いをしてもらうことにしようか。」
「…はい」
どちらにしてもしばらくここでお世話になる以上私に拒否権はなかったけど、時成さんに茶屋に行けと言われず少しホッとする。
「足だけは引っ張るなよ女。後、俺様に近づくな、女は嫌いなんだ」
「・・・。」
初対面でここまで敵意むき出しにされたのは初めてだ。
あと女だからなんだと区別され決めつけられるのは、社蓄時代のイヤミ上司を彷彿とさせて、抗うことなどできないほどの苛立ちと怒りがお腹の底から湧き上がってくる…。
「…自分もそうされた経験があるはずなのに、平気で同じ事をするんですか?」
「は…?」
「男の人だったのか、と私が驚いた時…聞き飽きたとおっしゃいましたよね?ものすごく嫌そうな顔で。そう言ったのは、貴方が自分の見た目で判断されることに対して、嫌悪していたからではないんですか?」
あぁ、どうしてだろう…
社蓄だった時はどんな差別的発言をされても、諦めのような怒りをグッと耐えるだけだったのに、何故だか口が止まらない…。
この世界に来て私、どうしてしまったのだろうか…
「なのに、貴方は私が女というだけで!私の事を知りもしないで、嫌いだから近付くな、と警告しましたね!自分の心と言動が矛盾してるのに、それに気付かないなんて貴方はただのーーーっ愚か者です!」
ズバッと言い放った後、ゼェ、ゼェと肩で息をした自分に、どれだけ怒りに身を任せ興奮していたのか、ととたんに冷静になった…
ーというか私は…一体何を言ってるんだろうか、自分が今しがたナズナさんを見た目で判断したばかりなのに、性別だけで嫌悪されたのが気に食わなかったとはいえ、ブーメラン発言にもほどがある…。
冷静になっていく頭の中と比例して、恥ずかしさと申し訳なさで頬がカァーと赤くなっているのが自分でもわかった。
できることなら今すぐ巻き戻して、自分の発言をなかったことにしてしまいたい…。
目の前のナズナさんが目を丸くして私を見ているその視線がいたたまれない…
「仲良くなれそうで良かったね」
なんともこの空気に不適当な発言をした時成さんに、私は呆れた視線を向ける。一体今のどこをどう捉えてそんな事を思うことができるのだろうかこの人は…
「時成様に頼まれてもコイツとだけは無理です」
ほらね。ものっすごく睨んでますよ私の事。そりゃそうですよ。自分でも反省してます。どうもすみませんでした…
「あの、ナズナさん。いきなり無礼な事を言ってしまって申し訳ありません」と素直に頭を下げた。
ナズナさんの性別差別も苛立つけど、最初にナズナさんを見た目で判断してしまったのは自分だから、と素直に謝った私に対し、ナズナさんは大きく舌打ちのあと「最低限俺様に関わるなよ!」ともの凄い形相で睨んできた
美人の睨みは迫力も凄いですね…
だけどもうちょっと大人な対応してもいいのでは?
ガキマインドにもほどがある…。
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