第10話 アホの子にでも分かりやすい説明の仕方
え、っと私が歪みである可能性があって?
それで時成さんがそれを解決するために私のいた世界にもいたかもしれない…?
いや、もうわからない理解がおいつかない…
混乱しまくっている私に気付いたのか、時成さんは「ふむ」と納得したあと、私から離れ、再び木箱に腰を下ろした。
「すまないね。一応頭の中で『アホの子にでも分かりやすい説明の仕方』と検索をかけてそれを実行してみたつもりなんだけど、それでもまだ由羅には足りなかったようだ。次は『赤子にでもわかる説明方法』と検索をかけるから少し待ってね。」
「…殴っていいですか?」
今ものすごく馬鹿にされたのはさすがの私でも分かりましたよ。とジトリと睨んでも、時成さんに反応はなく「なにしろね」とそのまま話を続けていた
「私は人とは違う理の中で生きているからね。情報も膨大で、どう説明すればいいかも一苦労なんだよ」
「…時成さんが人間じゃないのはもうわかりました。それで?姿とか変えたりできるんですか?私の世界に時成さんがいたとしたらどんな姿ですか?」
「人間じゃないわけではないんだよ。ただ世界の理からずれただけで、元はごく普通の人間だったからね。だから姿を変えたりとか特別な力は特にないね。君の世界に私がいたとしてもこの姿のままだろう」
「そうなら私に覚えはないです」
こんなに嫌味っぽくて胡散臭くて煙中毒な人いなかった。と否定した私の言葉に、時成さんは視線を上に仰ぐと「仮定がひとつつぶれたね」と呟いた。
「あの、私が歪みっていうのは、確定なんですか?」
「うん。それは間違いないだろうね。」
「…そうですか」
「そうだね…じゃあ次に、由羅の歪みについて話そうか」
「は、はい…」
「由羅、君が歪みである以上このまま君を元いた世界に帰すことはできない」
「…まぁ、そうですよね」
時成さんの言葉に頷くと「そもそも君の事を転送できるのかもわからないね」と続けた時成さんに目を見開く。
そういえばさっきもそんな事も言っていたけど…。でもじゃあ、私が元の世界に戻る方法はないの?
そもそも私はなんで、どうやってこの世界に来てしまったのだろうか…
「由羅がこの世界に来た方法と原因がわかれば、元の世界に帰ることもできるかもしれないけれど…。その前に歪みをなんとかしなければ、私は君を帰すわけにはいかないからね」
「…じゃ、じゃあさっさと、私の歪みとやらを直してください」
時成さんが歪みの修理屋さんみたいなものなら可能でしょう!と訴えれば、時成さんは再びにっこりと笑みを浮かべた。
「歪みを直すのも順序というものがあってね。まずその歪みが発生した原因から探り、正しい解決策を講じ、その上で消し去らねばならない。」
「…え?け、消し去るってどういう意味ですか」
「言葉のままだね。正しい世界へ戻すには発生した歪みを消し去るのが一番早いからね」
「え…つ、つまり私も最終的には時成さんに消されてしまうんですか?」
「場合によってはそうだね」
平然と頷いた時成さんの言葉にまるで頭を鈍器で殴られたような衝撃が走る。
なにそれ話が違う。さっきは歪みさえなくなれば元の世界に帰る方法を探せるとか言っていたのに、歪みをなくすためには私は消えなければならないなんて・・・!
消えるってことはつまりなに?私は死ぬってこと…?
「……。」
どうしてだろう。会社に行こうとして、暗い穴に落ちたときは、もう終わってもいいから…。と思っていたはずなのに…
今無性に死にたくないと、消えたくないと思っている私がいる…。
この世界にきたからだろうか
あの世界から逃げれたからだろうか
なにかを期待しているのか
どこかに希望を見出しているのか
なんだか自分のことさえもわからなくなって目頭が熱くなる
「別に今すぐ消えてもらう訳ではないよ。手順もいるしね。まずは由羅の歪みが何故発生したのか、その原因を突き止めなくてはいけないからね。」
「……原因?」
「もともと由羅という存在が歪みだったのなら無理だけど、由羅の歪みの原因が外的要因のせいなら、それを消せばいいだけで、歪みが消えても由羅という存在は残る」
「歪みさえ消えれば私は消えなくてすむ…?」
「うん。由羅のもといた世界に私がいなかったのなら、外的要因のせいだという可能性が高いからね。由羅の中にある歪みだけを消すことになるだろうね。」
時成さんの言葉にホッと息をついたのも束の間に「逆に由羅自体が歪みなら、簡単に消せるから楽なのだけどね…」と残念そうに呟いた時成さんに恐怖と苛立ちが同時に湧いてくる。
そういう物騒なぼやきは、せめて心の中だけでしまっておいてもらえないでしょうか
「外的要因となると、その由羅の歪みはこの世界に来たと同時に発生した、と考えるべきなのだけど。そこで詳しく聞かなければならないのが、由羅がこの世界に来た時になにがあったのか、ということだね」
「この世界に、来た時ですか…」
「その方法がわかればこの世界で由羅の歪みを消し、ただの人間に戻った由羅を、同じ方法で元の世界へ帰す事もできるかもしれないね。」
「どうやってこの世界に来たのか教えてくれるかな?」と胡散臭い笑みで聞いてきた時成さんに、私はいまだに理解の追いつかない頭で、ただ聞かれるがままに説明をした。
ひどい熱があったこと
それが治って会社に行こうとしたら、聞こえてきた鐘の音と、玄関前にいつのまにかあった穴に落ちたこと。
そして、金色に光るなにかに触れた瞬間、気を失ったこと…。
「気づいたら、時成さんに起こされていました」
「・・・。」
全て説明を終えると、時成さんは無言ですっ、と立ち上がった
今までずっと、薄い笑みを浮かべていたその顔が、困ったような表情を浮かべていて…
この人もこんな顔ができるのか、と少し驚いた。
「由羅少し触るよ」
「え、はい」
こちらに近づいてきたかと思えば、私の額に指を押し当て、時成さんは目を瞑った。
時成さんの指先は額に触れているだけなのに、まるで体の中を徘徊されているかのような、気持ち悪さに襲われる。
それに1分ほど耐えたころ、スッと指が離され徘徊されているような気持ち悪さから解放されて、私は深い息をはく。
時成さんを見れば、それは苦々しい表情で私を見ていて「どうしたんですか?」と質問を投げた。
「とても困ったことになっているね…由羅。どうやら君は、私のなくしたものらしい。」
「なくしたもの?」
「うん。君が穴に落ちた際見た光る玉は、私がいつのまにかどこかになくして、ずっと探していたものでね。それがどういうわけか君の中…。『心』にすっかり溶け込んでしまっている」
つまり、あの時みたあの光が、私に入ってしまったってこと?
え、なんで…?確かにあの時、あの光に助けを求めたけど…。それがなんで私の中に入ることになったんだろう…
「そもそもその光る玉ってなんなんですか?」
「んー、説明が難しいね。歪みを直すための道具でもあるし、私の命そのものの一部でもあるね。まぁとにかく、それがなくてはすごく困って私の存在意義自体が怪しいものになってしまう」
「…そんなに大事なものを、何故なくしたりしたんですか」
「それが私にもわからないんだよね。肌身離さず持っていたはずなんだけど、いつの間にやらなくなっていたからね」
この人落とし物多そうだな、とどこかのんきにそう思う思考を振り払って私は聞いてみる
「…それで。その光とやらが私の中にあると、どうなるんですか?私の身体に影響あったりしますか?」
「わからないね」
「…はい?」
「一体どうなるのか、今は予想すらできないね。だけど言えるのは…君からそれを取り出さないと、君にも私にも、そしてこの世界にも…良くない事だけは確かだね」
困ったねぇ、と笑う時成さんのどこか危機感のないその笑みに、気が抜けそうになる…
大丈夫?このひと感情ある?
「なにか、取り出せるような方法はないんですか?」
物体ならまだしも手に触れられない光なら、医者にかかったとしても手術とかで取り出せないだろうし。そもそも『心』に溶け込んでるとは?心って心臓のことなのだろうか…
どのみち溶け込んでるのなら、取り出す術が私には思いつかない。
必死に思案する私をよそに、時成さんはキセルを懐にしまいながら、私の顔をじっと見た後「おや?」と首を傾げた。
「どうやら終わりを受け入れていた気持ちが傾きだしたようだね。」
「はい?」
「とてもいいことだと思うよ。私もそうだと助かるからね」
「・・・自分本位で会話するのやめてもらえますか?」
さっぱり意味がわからない。
会話のキャッチボールって知ってる?
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