第2話 生徒議会後編
各委員会と部活が疲弊していく中で、ピンピンしているところが3つあった。理由は、極めて単純である。3つの委員会には予算案がいずれも1円となっているという共通点がある。その中でやはり最初に目に留まるのは、独立性を担保されている選挙管理委員会だろう。
そして、実行委員会である。これは、生徒会会則によると、『生徒生活や行事の安定などの公共上の観点から、生徒会が直接実施する必要のない事務や行事運営を効果的かつ効率的に行うために設立される』とされている。つまるところ、生徒会の外郭団体である。これに該当するのは、合唱祭実行委員会と学校祭実行委員会の2つである。
3つの委員会は、素晴らしい民主主義に振り回されることなく運営ができるように別途独立会計が認められている。だから別にここで予算をもらう必要がないのだ。ただし扱いとしては、委員会であるため形式的に予算案を1円として提出しているというわけである。
予算編成会も、後半に近づく中、ついに3つの委員会にもメスが入ることとなった。
「選挙管理委員会について、本年度本予算について1円としております。ですが昨年度の会計において、2200円の支出があるとしております。内訳のご説明を願います」
「生徒議会会則により、予算編成会において会長による許可もしくは、全生徒議員の½以上の賛成なく選挙管理委員会は発言は認められていません。藤倉生徒会長、発言を許可されますか」
「許可します」
じっと議論に耳を傾けていた生徒会長が初めて口を開いた。
「では、選挙管理委員会会計
「三上です。ご質問にお答えさせていただきます。昨年度の支出2200円の内訳ですが、全額筆記具の購入です。また、財源に関しましては、本予算1円並びに学校会計より2199円を補填いたしました」
「それでは、学校祭実行委員会にもお尋ねいたします。前年度会計報告書によりますと昨年度の執行額は、おおよそ40万円になったとされております。予算の大幅な増加が見られますご説明願えますか?」
再び議長が声を張る
「生徒議会会則により、予算編成会において会長による許可もしくは、全生徒議員の½以上の賛成なく学校祭実行委員会は発言は認められていません。藤倉生徒会長、発言を許可されますか」
「許可します」
昴の胸の鼓動が大きくなる。おそらく、議長が口を開けば、間違いなく昴があてられることだろう。今日の昼で、これでは、十分に説明できない。だが、昴とは対照的に前の二人の様子は変わらなかった。
「では、学校祭実行委員会 青山昴君…」
議長の発言が終わらないうちに部活動の列から手が上がった。あの
「科学部部長
ほんの一瞬空気がざわつく。
「学校祭実行委員会副委員長の秋濱です。前年度会計としてご回答申しああげたく存じます」
テロリストの長は、極めて冷静沈着にわけの分からないことを言い始めた。
「わかりました。では、ご異議のある方は、挙手を願います」
突如として現れた
「ご異議がないものと認め採用いたします」
「秋濱です。前年度の内訳につきましては、生徒会及び教職員会に提出しておりますが、改めてご説明いたします。昨今のSDGSへの取り組みのため…」
議員たちは、片付を飲んで見守ったがテロリストの長は、その噂とは裏腹に丁寧な言葉で分かりやすく説明を行った。そして10分間にもわたる説明の末に一礼をした後静かに座った。
生徒議員たちは安堵し、胸を撫で下ろした。特に、3年生の議員たちは、安堵の様子がはっきりと顔に現れていた。
途中休憩を挟むほどの長丁場となった予算編成会は、無機質的な白色の蛍光灯に照らされた議会に響き渡る金槌の音で締めくくられた。兎にも角にも各委員会と、部活動の1年間の予算は、決まったのだった。
校舎を出る頃には、淡いオレンジに染まった西の空に宵の明星が輝いていた。
「今日はお疲れさん」
昴の後ろから聞き慣れた声と共に缶コーヒーがニュッと現れた。振り返ればそこには、しゅんいちとあかねの姿があった。
「私が言う通り微糖にすればよかったのに」
あかねは、同じく缶に入ったコーンポタージュをすすりながらしゅんいちに注文をつけた。
「ブラックは、男のロマンさ」
「まぁ、そうですね」
「昴くん別にこんな
あかねは、しゅんいちのほっぺたをつねった。
「まぁまぁ、大目に見てあげな」
相変わらず学ランをコートのように羽織っている秋濱があかねの肩を後ろからポンポンと叩いた。
「なによ。あなただって、あんなかっこつけなければ、昴君を困らせることもなかったでしょうに」
あかねはプイッとそっぽを向いてしまった。
「知ってるよ。初っ端から書類を積み上げて可愛い後輩を困らせていたあかねさん」
そう言うと秋濱副委員長は、昴の方を向いた。
「昴君、さっきは緊張させてごめんね。昼のに顔出せばよかったんだけどそういうわけにもいかなくてね」
テロリストの長は、昴に気を使っている様子だった。あの三年生の顔から感じたものを昴は感じられなかった。
「ほんとに馬鹿よね。忙しいってわかってるのにこういう事するから」
「秋濱だっていろいろあるんだよ」しゅんいちはふてくされているあかねを諭した。
「痛てて」あかねは再びしゅんいちの耳をつかみ早歩きで歩き始めた。
「昴くん、明日もよろしくね」
そう言いつつしゅんいちの耳を引っ張り地下鉄の駅へと消えていった。
独立行政法人学校祭実行委員会 立原 千明 @kdc-ritu1221
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