(4)恐るべき陰謀

 その二人の誘拐犯も、一人目と同じく身を改め、剃髪し、悟りの道へといざなった。

 しかし、やはり一番に必要としている扉の鍵の様な物は見当たらない。

 いや……一人目の男は、壁が消えた時に右腕を突き出す様にしていた様な……。


 俺は何とか男の一人を抱え上げると、その右手を壁に当てて擦らせながら、元の小部屋の左手へと向かって足を進めた。

 すると、唐突に壁の一部が消失した。


「ぉおぉ……」


 思わず声を上げながらもその部屋の中へと目を向けると、俺が居たのと同じ作りの部屋の中で、光る板に向かって座る何者かが姿を薄れさせ消えていくところだった。


「ふぅっおっはぁあああーー!!!」


 呼吸が乱れて落ち着かない。

 怖ろしい光る板は、記憶を消すだけでは無く、その存在其の物すら消し去ってしまうのか。

 聖剣と言ったが、数多の突起が有るこの板も、棍棒と較べると見劣りがする。それで容易く昏倒させられるのだから、この突起の隙間から漏れ出る光といい、怖ろしい力を秘めているに違い無い。


 つまり、最強の武器で有りつつ、最強の防具にも成り得る。


 更に男の手を滑らせて確かめると、元の小部屋の左右合わせて開いた壁の穴は更に六つ。併せて八組の最終兵器を手に入れて、俺はそれを新たに得た二枚の大布で俺の体に括り付けた。

 突起の板を腕とかいなに一枚ずつ、更に両腰に下げての計六枚。残る二枚は二刀流だ。

 光る板は長髪を縒った紐で前と後ろで二枚ずつ下げた。背中に背負った分も合わせて五枚。残りの三枚も縦に括って最強の盾とした。

 貫頭衣に括り付けた錘も増えた故に、これもこれからは頼りになるだろう。


 しかし、俺の快進撃もそこまでだったらしい。


「……!! ……!? !! ……!?!?」


 小部屋の外、それも最初の部屋の辺りが騒がしい。

 見るからに重装備な俺の姿が目に入れば、直ぐに見咎められてしまうだろう。

 しかし、息を詰めそっと廊下を覗けば、運はまだ俺に有ったのか、集まった人影は最初の部屋へと入っていくところだった。


 もしくは通行手形の右の手首を切り落とすのが最初にするべき事だったかと思いつつ、脱兎の如く俺は小部屋を抜け出して、重鎧の儘にのしのしと小部屋区画から逃げ出した。

 一番違い曲がり角を曲がり、ほっと息を吐きながらも、止める事無く足を進める。

 俺が初めの探索で元の部屋に戻ってしまったのは、恐らく初めの場所から離れる事に恐怖を抱いていたからだろう。狭い範囲の探索に留まっていたと思われるが、それでもこの施設の構造に何と無くの当たりが付けられる様にはなっていた。

 恐らく、あの小部屋区画は相当に奥まった離れに在る。

 外へ向かうには、危険を冒しても中心地を目指すしか無い。


 幸いその立地から、小部屋区画の騒ぎはまだ広まっていない様だ。

 只管に歩き、通りの幅が広い方へ、天井の高い方へと足を進める。

 人影が驚く程少ない。

 脇道に逸れ、方角だけは合わせて、中心地へと直進む。


 おっと拙い。

 避けられない人影に走り寄り、最強の盾を突き付けるも、驚愕ばかりで反応が鈍い。

 聖剣の方が余程役に立つ。

 いや、それも早計か。

 次に出会った人影には最強の盾を叩き付けたが、案外それでも何とかなる。


 最後に辿り着いたのは、これこそ中心地と言うべき大広間だった。

 そっと覗き見ただけでも、十人を超える人影が居る危険地帯だ。

 円形をしたその大広間の中心には光の渦が渦巻いて、丸でその渦が出入り口でも有るかの様に、幾人の人影が光の渦へと入ってはまた外へと出て来ていた。


 神々しい光に満ち溢れた大広間は、それこそ荘厳で神聖さに満ちている。

 光の渦まで五十メートル少しを切り抜けても、光の渦の先が外に通じているかは分からない。

 とても誘拐犯のアジトとは思えないが、高尚な目的を自称する輩が実験動物を確保するというのは有り得そうだ。

 況してや、神の使途を名乗る者達が、神への生贄を捧げる為なら、それを躊躇うとも思えない。

 光の板の前で消えていく人影は、まさしく何かに捧げられる生贄其の物だった。


 俺には後が無く、迷っている時間も無い。

 その先に有るのが更なる苦難だとしても、飛び込む以外の選択肢は無かった。


「ぅうおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 五十メートルをただ走る。

 幸いな事に、並み居る人影は俺を捕まえるよりも回避を選んだ。

 そして俺はそのまま光の渦へと飛び込んだのだ。

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