(3)サバイバル
盗賊死すべし慈悲は無し。
誘拐犯もこれに同じ。
目の前に横たわっているのは、足下まで届きそうな長い銀髪の“人”だ。
少なくとも盗賊には見えないが、医者にも見えないからには誘拐犯に間違い無い。
それを打ち斃したとあれば、次にする事は決まっている。
身包み剥がして戦利品の確認だ。
そしていそいそと服を脱がしに掛かったのだが、物品の数は思ったよりも少なかった。
一番の収穫は、誘拐犯の着ていた服其の物。何と、脱がしてみれば実は一枚の大布だった。これはとても有り難い。
その服を留める、装飾過多のベルトには、奇妙な形のナイフまで付いていた。
逆にそれだけしか無かったとも言えるが、どれも今必要な物に変わりは無い。
贅沢を言うなら、ロープか紐の類もと思った俺の目に、その輝くばかりの長髪が映る。
ナイフも手に入った事だし、これも貰っていくとしよう。
後に残るのは、裸で矢鱈と整った顔の男だけ。
じっとその裸体を見る。
敢えて言うなら、最悪の場合は肉も取れるだろうか?
其処迄考えて、俺は首を振った。
まだそんな極限のサバイバルを考える時では無い、と。
何時かは必要になるかも知れないが、その前に食料庫を探すのが先だった。
それよりも、この奇妙な扉の開き方が問題だ。
他の扉もこれと同じなら、とても俺が開けられるとは思えない。
まぁ、その時はその時と、一先ず俺はこの小部屋から外へと足を踏み出した。
踏み出した先に有るのも白い廊下。
只管に白い壁、床、天井。
窓が無い為に、此処がどんな場所に在るのかも分からない。
食料も無く逃げ果せたとしても、野垂れ死ぬのが関の山だ。
しかし、それでも実験動物としての未来よりは明るいに違い無い。
完全に白いだけの空間では、目印が無ければ直ぐに迷ってしまうだろう。マッピングをする道具も無ければ、探索が進む筈も無い。
俺はそそくさと小部屋に引き返すと、倒れる男に最後に残ったそのパンツを引き摺り下ろし、それを丸めて小部屋の前へと鎮座させる。
真っ裸の男は入り口から見えない位置へと引き込んで、漸く俺はこの謎の施設の探索へと乗り込んだ。
後ろを振り返る。
丸めたパンツはとても目立つ。これならこの場所にも戻ってくる事が出来るだろう。
逆に言えば、俺の姿もとても目立つ。
大布は、男がしていた様に体に巻き付けベルトも締めたが、そもそも顔付きが違う人種だった。フードの様に顔を隠しても、直ぐにばれてしまうに違い無い。
余りにも不利。
長い廊下に身を隠す場所は無く、俺は開き直ってすたすたと歩く。
誰何されても無視をして、不意討ちをするか角を曲がってからダッシュするか。
採れる選択肢は多くない。
すたすたと歩き、角を曲がり、すたすたと歩き、十字路を曲がり、すたすたと歩き、丁字路を曲がる。
俺の心配は兎も角、人とは全く行き合わない。
逆に、探索にも何の進展も無い。
やはり、あの謎の壁開け技術が無ければ、何処へも行き着きそうに無かった。
そうして暫くすたすた歩いていた俺は、その角を曲がった時、廊下の向こうに屈み込む二体の人影を見た。
すたすたは止めない。それは流石に怪し過ぎる。
しかし、これは転機だ。何の手掛かりも得られないまま、無難でただ終わりを引き延ばす様な探索を続けるのか、或いはリスクを冒しても目の前に居る手掛かりから情報を掴むのか。
この手の聖剣が誘拐犯に通じる事は確認済みだが、相手が二人となると分が悪い。
徹底的に容赦無く
酷い頭痛を感じてはっと気が付けば、目の前には倒れ伏した二人の人影。
その間に落ちているのは丸めたパンツ?
そして俺は理解する。
目印に置いたパンツが布石となり、この勝利を導いたのだと。
いつの間にか戻って来ていたこの始まりの場所で、新たな道が今開けたのだと。
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