episode2.遭遇と変化
ViViがArkNOVAの世界へと転生し五時間、既に太陽は沈み空は満天の星で埋め尽くされていた。嘗て現実であった世界とは違い星の数は多く感じるが、相も変わらず銀色の月は一つ一際輝きを纏っている。
「いやはやこの身体は実に便利であるな」
現在ViViは五時間休むこと無く歩き続けているが、その肉体に一切の疲労が見られずにいた。空腹も無ければ喉の乾きすら無い。
これは言わずもがなArkNOVAの使用…では無く、ViViの自身の種族による影響故である。だがそのお陰もあってか、想定よりも早く森を抜け出せそうである。
と思っていた時、ViViが常時発動していた探知魔法に魔物とは別の、人間の存在を探知した。網に掛かった人間の数は四人、この場から約2kmとかなり近い位置にいる様だ。
「現地人との対面か…ふむ。中々に楽しみであるな」
▼
ViViの向かう先には四人組の冒険者パーティー、“茨の剣”が野営を行っていた。
彼らは現在昇格に必要な最後の依頼を受け、この森へとやって来ていた。依頼内容はこの森に生息するゴーレム種の一体、ウッドゴーレムの討伐及び素材の回収である。
「ウッドゴーレム。階級はそう高くは無い上、うちには火炎魔法が得意な“エナ”が居る。今回の依頼はそう難しくない」
「…だといいんだがな」
ウッドゴーレムはゴーレム種に於ける中でも下級に位置するモンスターであり、その名の通り木で形成されたゴーレムである。
そうなれば当然、炎が弱点となっている。その為初心者が序盤に戦う事となる最初のゴーレムでもあるのだ。
「ま、出来れば明日にでも討伐してその日の内に――」
――ガザガサッ
「「ッ!」」
野営の中、意気揚々と依頼について話していると、目の前の茂みがガザガサと荒い音を上げながら揺れた。
見張りをしている二人、リーダであり剣士である“リアス”と盾役である“カイル”が瞬時に武器を構える。
「ちょっとどうしたのよ?!」
「敵襲ッ?!数は?!」
テントの中で眠っていた二人、“エナ”と“リィズ”も事態に気付いたのか、同様直ぐ様武器を手に取りテントから駆け出して来る。
この森には多種多様な魔物が生息しているが、現在居る位置からして魔物の系統は獣か
緊張猛々しい中で茂みより姿を見せたのは――
「はっはっはっ。あいや済まんな。何やら誤解の元お前たちを警戒させてしまったようだ」
全身を葉や小枝で汚したなんとも気力の無さそうな男、ViViであった。
▼
「まじで脅かしてくれんなって。んで?なんでこんな所にひとりでいんだ?」
「実の所先程までは護衛が居たのだが、気付けば
けたけたと笑いながら説明をするが、ViViの発言は当然嘘である。
迷子と言う事に限って間違いは無いが、護衛などいる訳も無く、単に現地人である彼らと接触したいが為に作り出した嘘話なのだ。
「迷子ですか。それでしたら明日、依頼を終えた後であれば道案内をする事ができますが」
「ほう。それは実に有難い」
この者らが野蛮な輩であったならば実に困ったところではあるが、どうやらこの者達は充分に話の通じる相手のようで何よりだ。
見た所四人組の新米パーティーと言った所か、人間の男が二人、剣士と盾役であろうな。
「んじゃまぁ取り敢えず明日ウッドゴーレム討伐して帰るか」
「ほう。お前たち、ウッドゴーレムを討伐しに行くのか」
ウッドゴーレムとは、これまた随分と懐かしい。序盤以降特に必要価値の無い魔物故すっかり見ていない。
「そうなの。ま、火炎魔法が得意な私が居るし?余裕だけどね」
「そうか。ならば安心であるな」
運が良ければ当たりに出くわすやもしれんが…そうなればこの者達は死ぬ事になるであろうな。されど冒険者とはそう言うもの。この者らもそれは理解しているであろう。
「あ、ひとつ言っとくけど、巻き込まれて死んでも文句言わないでよね?」
「なに、その程度承知しているとも」
そしてその翌日、茨の剣は予定通りウッドゴーレムは多く生息している場所へと辿り着いた。通常ウッドゴーレムは何処にでも生息している魔物ではあるが、その大半が身を隠している為通常見つけるのが困難である。
だが時としてウッドゴーレムの群れ、正確にはウッドゴーレムの好む場所が存在する。周期がありはするものの、確実にいる事から新米冒険者には好まれている。
今回茨の剣がいるこの場もまた、その内の一つなのだ。
「ふむ」
既にウッドゴーレムは直ぐそばに居るのだが、矢張りこの者らは気付けておらぬな。アレは正面から戦うのではなく自然へと溶け込み奇襲を仕掛けてくる。
故に隠密能力はそれなりに高い、新米冒険者であるこの者らが気付けずとも致し方なしであるな。
「っ!リアス!前よ!」
「!カイルッ!盾だ!」
「了解ッ!」
エナが発動していた探知魔法に漸くウッドゴーレムが掛かる。そしてその位置をリーダーであるリアスへと伝えた同時、ウッドゴーレムの根が鞭のように
それに対しリアスは盾役であるカイルへと指示を飛ばし、カイルは即座にリアスの前へと立ちその攻撃を防ぐ。だが想定よりも衝撃が強く、カイルは後ろへと吹き飛ばされてしまう。
目の前に現れたウッドゴーレムは5mほど、通常と比べて2m高く脅威度も少しばかり高くなる。
「意味無いかもだけど、一応私も弓撃つ!」
ウッドゴーレムは炎と斬撃に対し余り高い耐性を持っていないが、その他の物理による耐性はそれなり高く、未だ属性の付与できない新米弓使いであるリィズでは殆どの損傷は与えられない。
とは言え牽制にはなり少なからず自身へとヘイトを向けられる。そうしている内にエナが離れた位置で火炎魔法を詠唱し、カイルは受けた損傷を回復薬で癒し、その隙にリアスがウッドゴーレムの鞭の根を身体強化を発動して斬り飛ばす。
「ふむ。このままゆけば問題は無いであろうが…」
「皆下がってッ!詠唱終わったからッ!」
そうこうしている内に魔法詠唱が完結する。彼女の発動する魔法は“第六界域魔法:爆炎”である。
本来であれば新米冒険者が使えるような魔法では無いが、エルフには種族能力として“魔法の使い手”もしくは“弓の達人”を授かる事がある。
彼女の場合、前者を保有している為使用出来る魔法の界域が通常よりも高いのだ。
「最後に体勢を崩させてもらうぞッ!“剛撃”ッ!」
エナの放つ魔法を確実に当てる為に、リアスは剣士の
足を一本失ったウッドゴーレムは、斜めにバランスを崩し地響きと共に倒れ込む。
「よしッ!撃てッ!エナッ!」
「任せてちょうだいッ!ぶっ飛べッ!」
――第八界域魔法:爆炎ッ!
彼女の放った魔法はウッドゴーレムの周囲でバチバチと火花を散らすと、次の瞬間腹底に響く程の轟音と共に爆炎が撒き起こる。
見事なまでに直撃したウッドゴーレムは、轟々と燃え上がり完全に討伐状態となった。
「よしッ!」
――パチパチパチ
ウッドゴーレムの燃える音…では無く、ViViの拍手がその場に音を放つ。
「実に見事だ。駆け出しながら肥大種を危なげなく倒すとは…では
「えっと?既にウッドゴーレムは倒し――」
――べきょっ
金髪の青年の首が嫌な音を鳴らして360°に回転する。
「い、いやぁああああっ!」
「リアスッ!」
「な、何が起きたの?!魔力探知には何も引っかからなかったのにっ!」
突然の事に何が起きたのか理解が追い付かず、リィズの甲高い悲鳴は森に広く響いた。カイルはリーダーであり友人であるリアスの名前を叫びながら近付き、エナは混乱の中で逆方向へと全力で走り出す。
「哀れであるな」
残念な事に、幾ら悲鳴を上げようとも、幾ら救おうとも、幾ら逃げようとも、最早どうすることも出来ない。
冷静さを欠いたリィズは悲鳴を上げながらその場に蹲った事により、謎の魔物に縦に斬り裂かれる。
もしかすれば生きている可能性がなどと言う哀れな考えの元、リアスを回収しよう駆け出したカイルは胴体が吹き飛んだ。
エナは息を荒らげながら一心不乱に森を抜けようと駆け続けるが、魔物の圧倒的な速度により頭部を砕かれる。
先程までウッドゴーレムを倒し喜んでいた茨の剣は最早存在せず、残ったのは肉塊と化した死体。
そして茨の剣が全滅した今、次に狙われるのは当然ViViである。
「いやはや期待はしてみるものであるな。よも“金の林檎”がウッドゴーレムに実っているとは、実に運が良い」
金の林檎――頭部がバスケットボール程の金の林檎で出来ており、その下からは鍛えられた
本来、金の林檎は“黄金樹”と呼ばれる“四大大樹”のひとつに実る
そして十二段階ある“戦域”と呼ばれる段階の内、金の林檎の戦域は“第三戦域”。
第五戦域より先は本物の怪物、一戦域上がる毎に強さは増して行き、第三戦域ともなれば都市を単体で滅ぼす事が出来る。
故に駆け出しではまず勝つことは不可能、それは疎か逃げる事さえ出来ない。熟練者であってももソロで勝つ事は非常に厳しいのだ。
だが当然、金の林檎から入手できるアイテムは非常に希少でありかなりの値が付く。更には最高位の回復薬や強化薬にも用いられる。
「ふむ。懐には余裕があればある程良いな」
侮辱。
人間の言葉を理解出来ずとも、金の林檎はViViの発言を自身を酷く侮辱するものだと捉えた。
刹那、金の林檎の姿がブレViViの眼前へと瞬間移動かと錯覚する速度で現れる。大きく振り上げられた拳はミシミシと音を立てる程に強く握られ、今にも振り下ろされそうな勢いだ。
「脳筋であるな」
そして放たれた拳は音速の壁を越え確実にViViの顔面を捉えた――が、振り抜かれた右拳はViViへと直撃する僅かな瞬間に木端微塵に砕け散る。
肩より下が完全に無くなり、欠損箇所からは金色の液体がボタボタと絶え間無く流れ続けていた。何が起きたのか理解が追い付かず、金の林檎はその場で硬直する。
「装備効果で自動で発動する特性品でな。
自身のレベルが150以上且つ相手のレベルが20以上下であればその総ての攻撃を反射する事の出来る魔法装備である。
今現在ViViの身に付けている装備は“測定不能戦域”戦用、つまり第三戦域ではどう足掻いたところで防御を突破する事は不可能な代物だ。
「さて。俺は早々に森から抜け出したいのでな、悪いが長くは構ってやれんのだ」
――第一界域魔法:切断
何かが来る――そう感じ取った金の林檎は身構えるが最早遅く、金の林檎には縦に細い線が入りそこから一気にパリッと音を立てて崩れ落ちた。
切断された面は林檎その物であり、そこからは血ではなく黄金の液体が溢れ、中でも頭部から溢れ出る液体は一層輝きを放っている。
この一層輝きを放つ液体こそが、金の林檎のみから入手の出来る素材、“黄金の果密”である。その入手難易度の高さから売られている際の価格は、2mlで金貨三枚は下らない。
故に金策目的で熟練のプレイヤーやNPCが金の林檎の討伐に向かうが、その道中にて高戦域のエネミーと遭遇し約半数が返り討ちに会いプレイヤーは重たい罰則を、NPCは帰らぬ者となる。
「ふむ。これで良いか」
ViViは死んだ冒険者の所持していたポーションの中身を捨て、その中を軽く洗い黄金の果密を満タンに入れた。入手出来た量は100ml程であり、価値にして大金貨十五枚分である。
「それにしても種族故か、眼前で人間が死んだと言うのに何も感じぬな」
されどこの先人死には頻繁に目にする事となろう。であるのならばこれは有り難いと感じるべきか…いやはや難しいものであるな。
「さて。案内人が死んでしまったな。どうしたものか」
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