第2話 気乗りしない依頼(2)



 まずは軽くさぐりを入れようと、ジュードは左のジャブを打ってみる。


「ちょいと気になるんだが、ご自慢の『実行部隊アタック・チーム』はどうした? まさか“残業はさせられない”とか可愛いことぬかすなよ?」

≪あいにくと全チームが出払っててな≫


 そうだろうとも。

 前回も同じセリフを口にして、本音は“非合法な活動も絡むからできるだけ会社の痕跡を残したくなかった”ことをジュードは知っている。


 ついでにいえば、あの任務で受けた“尻の傷”はまだ疼いている。無論、これはただの恨み節だが。

 

≪もちろん頭数だけなら集められたが、熟慮の末、あえて四人に絞り込んだ。おまえらも不慣れな連中と組みたくはあるまい≫

「俺達の参加は決定事項かよ」


 あまりの図々しさにジュードは呆れ返る。

 だが忌々いまいましいことに『カラーレス』は“仕事の日照り”が長引いており、安易に断れない弱味を持っていた。

 むしろ、それを折り込んでの“お誘い”と考えるべきか?

 この元上官ならありえる話だ。


「――もうひとつ。今度はどこでドンパチさせるつもりだ。8人とはいえ2チームも必要とする作戦なんて……まさか東欧や中東のアングラ拠点を襲うとか、アフリカの無政府地帯で要人救助する、なんて無茶な依頼じゃないよな? だったら、別途規定の料金をたんまり請求させてもらうぞっ」


 無論、そんな仰々しい“規定”などジュードの会社にあるはずもない。一流相手に必死で爪先立ちをして見栄を張っているにすぎない。

 いや、そもそも“危ない橋”を渡るつもりなど毛ほどもない。ウチはクリーンでホワイトな仕事を手がけることがモットーだ。


≪安心しろ、国内じもとだ――有名企業の研究施設で仕事をしてもらう。ただ、機密事項で正確な場所までは明かせないが――『セオドラ社』は知っているな?≫

「ああ。最近よくCMで観る健康食品の会社だろ」

≪元々は、特許切れの薬を販売する『ジェネリック医薬品』取扱い専門の会社だった。

 それが“海外医薬品の輸入業”に“健康器具”や“医療関係検査機器”など取扱品の対象を広げ、さらに一部商品の自社開発にまで乗り出して――最近では“バイオテクノロジー産業”への参入を本格化させている≫


 詳しい業態はともかく、州民でその名を知らぬ者のない新進気鋭の企業であることくらい、ジュードも知っている。


 特にメディアへの露出が精力的で、若き経営者の自信に溢れたイケメン顔は、TVでもネットでも会社のCM以上に目にする機会が多かった。


「研究施設? 強盗団に襲われたのか? ――とにかくその、セオドラが今度の依頼者クライアントってわけだ」

≪YDSのな。おまえたちの依頼人は、あくまでYDSになることを誤解するな≫

「ほう。勝手に下請けを使って大丈夫か?」

≪無論、事前協議は済んでいる≫


 その言い回しに、ジュードは何となくきな臭さを覚える。

 眉をひそめ、“使い捨て”にされてはたまらないと語気を強めて。


「隠し事はナシだぞ?」

必要なことは・・・・・・、きっちり話すとも≫


 いや、その判断基準がウサンクセーんだよ!

 ジュードがツッコむ前に、相手は速やかに経緯を語りはじめた――。

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