第4話 ネット会議
SHELから自宅までは車ですぐである。北海道ならこの季節この時間ならまだまだ明るいはずだが、茨城はもう暗い。車を駐車場に止めればアパートの2階が私達の部屋だ。
「修二くんネット会議の用意してくんない? 私夕食作っちゃう」
「食べながら会議?」
「うん、他のみんなもそうなんじゃない?」
「そっかなぁ~?」
修二くんはPCの電源を入れると「シャワー浴びてくる」と言って風呂場に行った。修二くんのシャワー所要時間は平均5分、それでも汗臭かったことなど無い。どうすればあんなに手早く体を綺麗にできるのかいつも疑問だ。
うちのダイニングは勉強部屋を兼ねている。二人暮らしには無駄にでかいダイニングテーブルが入れてあるが、食事時以外はこれが勉強机になる。壁際には私と修二くんのPCが並んで置いてある。先ほど修二くんは自分のPCの電源を入れていたから、これで会議に参加することになる。モニターが大きいので、食卓から充分見ることができる。うちにはTVが無く、朝はPCで動画サイトでニュースをみている。
食卓にサラダや食器類を並べ、冷凍庫からご飯を出す。ご飯はまとめて炊いて冷凍しておいている。電子レンジで加熱したら、充分美味しいと思う。アスパラ巻きを焼き始めた頃、ネット会議に優花がログインしてきた。
「こんばんわーって聖女様、何してんの?」
「あ、久しぶり、夕食用意してる。食べながらでいいかなって」
「なにそれずるいじゃん」
「夕食まだなの?」
「うん、お母さんに頼んでくるわ」
「ほいほーい」
優花は川崎の実家住まいだから、いつも夕食は実家で食べているのだろう。優花は倹約家なのだ。
続いてやってきたのはのぞみと明くんだった。
「やっほー、聞こえる?」
「うん、聞こえるよ」
「何作ってんの?」
「アスパラ巻き。レシピどおりにやってるよ」
「そっか。こんど明くんに食べささせてやるか」
カサドンも健太くんもログインしてきて、まだなのは真美ちゃんだけになった。
「聖女様、真美先輩は先にはじめて欲しいって言ってました」
カサドンがそう言うので、始めることにした。
「じゃあさカサドン、簡単にドラゴンの目撃情報教えてくれる?」
おそらくみんなネットで情報は調べているだろうが、念の為カサドンに情報をまとめて教えてもらうことにした。
「最初に目撃情報が出たのは、3月の終わり、新冠町ですね。卒業式の直後です」
新冠町は北海道をひし形に例えたら、南側の頂点のちょっと西側にある。北海道の中央部から襟裳岬へとつづく日高山脈の西の麓である。
「続いて4月始め、占冠で目撃されてます」
占冠村はやはり日高山脈の麓にあたり、新冠より北である。
「それから4月中旬に夕張、ゴールデンウィーク中には手稲山で目撃されました」
カサドンの話では、3月から5月にかけ、少しずつ北へ西へと移動し、ついに札幌のすぐ近くにまで来たということである。
「ですが、ゴールデンウィーク明けに駒ケ岳で目撃されたのが最後です」
「駒ヶ岳って、函館の近くの?」
「そうです」
「そっか」
それから約1週間目撃情報はないそうだ。
「こっちではドラゴンを探すのがはやってるんですよ。それで全国ニュースになったみたいです。聖女様は見てなかったみたいですけど」
「忙しかったんだから、しょうがないじゃん」
「わかりますけどね。ですけどこれ、ルドルフだとすると聖女様を追いかけて移動してるんじゃないですか?」
私は言葉が出てこなくなった。
カサドン情報から思うのは、ルドルフは私達と一緒にブラックホールを通ってこっちに来たのだろうということだ。むこうでも呼ばなければ姿を現さなかったから、こっちでは山深い日高で姿を隠していたのだろう。しかし私が茨城に移動したので、ルドルフは私を探して移動したように思える。
「ん、皆のもの、どうしたのじゃ?」
「あ、真美ちゃん、お疲れ様」
のぞみが反応した。それからしばらく、お互いに近況を伝え合っていた。私をのぞいて。
「聖女様、言葉がないのう?」
真美ちゃんが私に話を振ってきた。
「うん、ルドルフが心配で」
「心配?」
「うん、心配」
優花が私に言う。
「ルドルフは強いじゃん」
「だけどね、こっちには飛行機がいるし、千歳とか戦闘機いるじゃん。ルドルフにとっては生きにくい空なんじゃないかな」
「そっか」
私は口にした通り、強烈にルドルフが心配になっていた。
向こうの世界では、ドラゴンは空の王者だった。しかしこちらでは飛行機がたくさん飛んでいる。その存在自体邪魔に見えるだろうし、戦闘機に至っては音速を越えるし攻撃能力も持っている。さすがに翼をはばたいて推力を得るドラゴンが音速を越えるのは無理だろう。対空ミサイルというのもある。ドラゴンは有機物でできているから、通常の航空機に比べてRCS(レーダー断面積)は小さいだろうがゼロではない。そういえば中性子散乱実験でも、「微分散乱断面積」ていう用語つかうなぁ。
「杏、心配なのはわかるけど飲み過ぎだよ」
「え?」
見ると目の前のワインのボトルがすでに空になっていた。
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