第2話 鑑定の結果


「水晶玉に手をかざしなさい」

神父様に言われて僕は水晶玉に手をかざした。神父さんの背後にある神々こうごうしい女神像とその後ろのステンドグラスが別世界のように綺麗で、僕は見惚れていた。

 「んっ!?」

突然、神父さんの声がした。僕の斜め上ぐらいに、透明なノートのようなものが浮かんで現れたのが見えた。


 その浮かんで現れたノートのページが、パラパラと数枚めくれて開かれた。これが女神様の、適正職業鑑定のお告げ方法なんだと実際に見て実感した。

 「えっと、僕の適正職業は……」

女神様のお告げを受けているときは、それを話してはいけない。終わってからは許される。なので僕は、ノートの形をしたお告げを心の中で読んだ。


 

 ~◆~ マオ15歳男(辺境の村リール出身)~◆~

 

◇適正職業(最高値は☆5)◇

 

 ◎料理人 ☆☆☆☆(4/5)

 〇宿屋の主人 ☆☆☆(3/5)

 ●魔王 無限大 ∞ (測定不能)


 ~◆~ 女神の適正職業の鑑定結果 ~◆~

 

「!?」

 声を出さなかったのは褒めて欲しい。料理人、星が四つ。宿屋の主人は星三つ。これはわかるけど……。最後の【魔王】ってなに!? 

この∞マークは、なんですか――!?


 ふと視線を感じて、顔をその視線の先に向けた。

「ひっ!」

にこやかに微笑んでいるけれど、目のまったく笑ってない神父さんが僕を見ていた。

 「自分の、適正職業のお告げは読みましたか?」

なぜか体がブルブルと震えてきた。

 「は、はい」

いつもにこやかな神父さんが、笑っているけれどなぜか怖い。立ち姿は変わってないけれど、神父さんの全身から何かが出ていた。


 「次の人、どうぞ」

神父さんはフッ……とを消して、つぎに鑑定を受ける人を呼んだ。……僕はペコリと頭を下げて、幼馴染のいる場所へ戻った。

 「どうだった!?」

二人の期待に満ちた顔を見て、僕は答えた。

 「う、うん。希望通り、料理人と宿屋の主人の適正職業の鑑定が出たよ」

あと、希望じゃない【魔王】という……職業? も、あったけれど。それは隠しておく。そんな職業なんていらない。なにそれ?


 「良かったねぇ!」

ベルがニコニコ笑って喜んでくれた。

 「みんなで頑張ろうぜ!」

ジーンは、僕とベルの肩に腕をまわして二人を抱きしめてきた。

「ジーン! 痛いわ」

 「力、強すぎ!」

クスクスと三人で笑った。僕は【魔王】という職業? が気になったけれど、間違いじゃないかと思った。だってジーンのように鍛えてもないし、ルルンみたいに運動神経がいいわけじゃないし。うん、きっと間違いだ。僕はそう結論を出した。


 それから教会の外に出て、ルルンが教会から出て来るのを待っていた。

「おそいなあ……ルルン」

ジーンが、その辺に落ちていた木の棒で素振りしながら言った。

 「そうね……。なにか不具合があったのかしらね?」

 ベルの言葉で、僕の鑑定結果が不具合かもしれないと気が付いた。そうだ。不具合だ。良かった~! 明日にでも神父さんに伝えなければ!


 「あっ! ルルン!」

ベルは、ルルンが教会から出てくるのを見つけた。皆でルルンに手を振ると、ルルンは手を振り返してくれた。

 「みんな、待っててくれたの?」

ルルンは僕達の方に走ってきてくれた。

 「みんなで待ってた。遅かったな。鑑定結果は、大丈夫だったのか?」

ジーンが皆の聞きたいことを言ってくれた。


 「う――ん、それがね……。えっと、剣術に才能があってお城へ行くことになったの……」

 ルルンは言いにくそうに僕達へ伝えた。

「え――! すごいじゃない! お城に行くなんて、すごい才能が見つかったのね!」

ベルは興奮して、ルルンのことを褒めた。その後ろでジーンがうつむいていた。

 「あっ……! ジーンもすごいんだよ! 希望の騎士と冒険者だったんだよ」

「えっ! すごいね! 良かったね! おめでとう、ジーン」

 ベルがジーンの鑑定結果を言うとルルンは、ジーンにお祝いの言葉を言った。


 「お城に行くっていうほうが、だろ! くそっ!」

ジーンはそう言い、僕達の前から走って行ってしまった。

 「あっ……、ごめんなさい。私、よけいなことを……」

ベルは眉を下げて涙目で謝った。

 「よけいなことじゃないよ、ベル。私が言わなければよかったんだ」

そう言ってルルンはベルに抱きついた。

 「どちらも悪くないよ! ジーンはきっと明日になれば、いつもと変りなく来てくれるよ!」

 僕はギュッと片手を握った。ジーンの性格は皆が知っている。皆、「そうだね」と頷いた。


 「……悪いけど、明日お城へ旅立つことになったんだ。支度しなきゃいけないから、帰るね」

ルルンは申し訳なさそうに、僕とベルに言った。

「悪くないよ! 毎年、村の何人かは修行とかで村から出るから!」

僕は毎年15歳になった村の人達が村から出て、立派になってくるのを見ている。

 「みんなで頑張ろうよ、ね?」

二人は僕の言葉を聞いて笑った。

 「そうだね! 頑張ろう!」

 ルルンは僕の頭を胸に押し付けて、むぎゅっと抱きしめてきた。

「あ、ルルン! ズルい! 私も――!」

どさくさに紛れてベルも僕に抱きついてきた。僕は皆よりもちょっと小柄なので、弟みたいに思われているみたいだ。二人に頭を撫でられている。


 「ち、ちょっと二人とも離れて!」

無理やり二人から離れて距離を置いた。

 「え――、なんでぇ? いいじゃん!」とルルン。

 「ねえ? ルルンは明日からお城に行っちゃうし、いいでしょう?」 とベル。二人が相手では僕は負ける。

 「ほら! ルルンの両親が迎えに来てるみたいだぞ?」

教会の扉の前に立っている、ルルンの両親が見えたので教えた。両親が迎えに来るなんて……。明日には旅立ってしまうルルンを心配して迎えに来たのかな?


 「あ、ホントだ! じゃあ、明日ね! 見送りに来て!」

ルルンは手を振りながら両親のもとへ走って行った。

 「私とマオは、この村に残るのね。よろしくね、マオ」

首をかわいらしく傾げてベルは、僕に握手を求めてきた。

「ふふふふ……。なんで、握手?」

僕はベルの手を握って聞いてみた。

 「よろしくの、握手よ。んもう! そんなに笑わないでよ、マオ!」

手を放してベルはちょっと、頬を膨らせて言った。そのあとはそれぞれ自分の家へと帰って行った。


 鑑定を受けた15歳の子達は、どの家も親に報告をしてお祝いをする。15歳で大人の仲間入りという、この国の習わしだ。

 15歳で鑑定を受けて修行に入ったり、技を磨いたり、冒険に旅立ったりする。

「おめでとう! 料理人と宿屋の主人の鑑定なのね! なりたい職業で良かったわね!」

 父と母は喜んでくれた。テーブルの上にはごちそうが並んでいる。

「たくさん食べてね!」

 僕は「ありがとう」と返事をしてごちそうを食べた。


 夜、寝付けなくて外へ散歩に行こうとした。散歩といっても家の周りを歩くだけだ。やっぱり鑑定の魔王あのが気になって眠れなかった。

家の出入り口の扉を開けて外に出た。

 外はちょうどいい気温で気持ちが良かった。夜空には星がたくさん見えて綺麗だった。


 ふと、人の気配を感じて視線を向けると木の影に、教会の神父さんが隠れてこちらを見ていた。

 「うわあ!」

 僕は驚いて大声をあげてしまった。


 

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