鑑定の結果、適職の欄に「魔王」がありましたが興味ないので美味しい料理を出す宿屋のオヤジを目指します

厘/りん

第1話 始まりの日



 ここはグリーンリル王国。

女神様の加護を受けて大陸で一番に栄えた緑豊かな国。この国の子供達は15歳になると、教会で女神さまの適性職業鑑定を受けることが義務付けされている。

 毎年、辺境の村 リールでも、15歳になる子供達は全員が教会で適性職業の鑑定を受ける。


「父さん、母さん。適性職業の鑑定に、教会へ行ってきます!」

「マオ、気をつけて行ってらっしゃい!」

 辺境の村に住む、15歳になった僕。マオは、張り切って教会へ向かった。


 家から教会までそんなに遠くないので、すぐに着いた。教会には15歳になった男子と女子が並んでいた。

「あ、マオ! 遅ーい!」

「遅いぞ!」

この村の子供達は皆が知り合いか幼馴染で、隣近所の子供同士が仲良く遊ぶ感じだ。

「皆、早いな~」

皆、心待ちしているので朝から並んでいた。

 

「私はどんな適性職業なのかしら? 楽しみ!」

幼馴染の赤毛のルルンは、この村の子供達の中でも運動神経が良かった。冒険者になる夢を見ている。

「私は野菜作りが好きだから、八百屋さんになりたいな……」

野菜作りが上手なベルは、胸の辺りで手を組んで控えめに僕に言った。

「俺はかっこいい騎士になりたい!」と僕達の中で一番背が高いジーンは、拳を握った。


「皆、女神様の加護を受けられるよ」

僕は幼馴染の皆に言った。女神様の加護は小さい頃からあらわれている場合がある。得意なことだったり好きなことだったりと、その子にあった加護を授けてくれる。たまに授かった加護と違う職業を選ぶ者もいる。加護を複数授かったまれな者もいるそうだ。


「マオは何をやりたいの?」

幼馴染のルルンが僕に聞いてきた。

「僕は美味しい料理を出す、宿屋をやりたいな」と返事をした。

「マオの料理は美味しいから、適性だよ! 絶対、宿屋をやって! 私、泊まりに行くから!」

 ルルンは僕の手を強く握った。少し力が強くて痛い。

「いいな! 俺も泊まりに行く」

ジーンも頷いて言った。

「じゃあ私は、収穫した野菜を届けに行くね!」

ベルは微笑んで僕に言った。僕は笑って「必ず、美味しい料理を出す宿屋を作るよ」と三人に伝えた。


「そろそろ鑑定を初めますから、一列に並んで下さい」

教会の神父さんが子供達に声をかけてきた。辺境の、のどかな村なのでのんびりしている。神父さんは国の中央から派遣されてきた人なので、姿や立ち振る舞いが違う。

こんな辺境の地にいるのが不思議だ。


 村の子供たちが次々と、女神さまの職業鑑定を受けていく。大体が自分の得意な事につながる職業だったりするので、嬉しい歓声があがる。周りも「良かったな!」と喜びの声かけが聞こえてくる。

 女神様の職業鑑定は教会の女神さまの像の前の水晶の玉に、手をかざしてお告げが現れる。ほかの者には見えないけれど、自分だけに空中へ適正職業の書かれた文字が浮かび上がるそうだ。


 「次。ルルン」

  「はいっ!」

 幼馴染のルルンの番になった。元気よく返事をして教会の椅子から立ち上がった。順番を待つ僕たちは、教会の中で椅子に座って待っていた。

 「水晶玉に手をかざしなさい」

毎回決まったセリフを言う神父さん。頷いたルルンは水晶に手をかざした。すると他の子にはなかった、まぶしい光があふれた。

「え!? なに?」 

ルルンも驚いていた。皆がルルンに注目している。何か変わった職業鑑定だったのだろうか?


 「……ルルンさん。お話があります。職業のことは内密に」

神父さんは、にっこりと微笑んでルルンに話しかけた。ルルンはコクコクと何度も頷いていた。教会のほかの神父さんが数人出てきてルルンを別室に連れて行った。

 「何だ?」

ジーンは怪訝そうに話しかけてきた。何人も判定が行われたが、ルルンのように光ったのは初めてだった。神父さんの驚いた様子から、適正職業のお告げは本人だけに見えるとか言っていたけれど、神父さんにも見えてるみたいだ。


 僕達には見えなかった。ルルンは大丈夫だろうか。

「俺は大丈夫かな? 光ったりしないといいけど」

ジーンの番になって、椅子から立ち上がって俺たちに心配そうに話しかけてきた。

「だ、大丈夫だよ! たぶん」

僕はジーンを励ました。

 「たぶん……? まあいいか。行ってくる」

 

 ジーンの番になって鑑定を受けたけれど、特に光ったりはしなかった。ほっとした表情のジーンが俺たちの所に戻ってきた。

 「適正職業、騎士か冒険者だった! 良かった……」

本人の希望通りだったので僕とベルは、おめでとうと言った。


 ジーンは機嫌よく笑って、僕の隣の椅子に座った。

「次はベルだな」

ジーンはベルに声をかけた。

 「頑張って、ベル」

昔からベルは人前では緊張してしまうので僕は元気つけた。

 「うん。頑張って鑑定を受けてくる!」

両手を握りしめて僕達に笑顔で答えた。


 「適正職業は、野菜つくりと八百屋さんだったの! 嬉しい!」

戻ってきたベルが嬉しそうに僕達に報告してくれた。

 「良かったね!」と僕はベルに伝えた。

 「良かったな!」

ジーンはベルの肩を軽くポンポンと叩きながら言った。


 「次は僕の番か」

二人とも光ったりしなかったので僕も大丈夫だろう。僕は適正職業の鑑定を受けに神父さんの待つ、台の上に置かれた水晶へと向かった。

 

 

 


 

 

  

 

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