第4曲 俺とお前のアルペジオ④

「ところで、近藤こんどうさん。ギター募集の張り紙なんて書いてたすか?」

 蓮弥れんやはお好み焼きの具材の入ったボールをかき混ぜながら聞いてきた。


「あー。確か、一緒に日本一!だとか、一緒に武道館!だとか、世界一!そんな適当なことを書いたかな。」

 そういうと、ピクッと糸ノ瀬が反応した気がした。

「子供じゃないんだから、ははははは」

 蓮弥は、笑いながら鉄板に、具材を流し込んだ。


「どうした?糸ノ瀬?そういえばお前は、どうしてこのバンドに入ってくれたんだ?」

 一度会った時に聞くべきだったがあの時は、こいつが暴力的だったからな。


「ん、適当だよ。ライブハウス前の掲示板にチラシが張ってあって、たまたま通ったスタッフが、あんたのこと信用できるって言ってたから。」

 頼んだコーラをストローを差して飲みながら、糸ノ瀬は答えた。


「ほーん。誰だろうな。ま、これからよろしくな。」

 俺は、笑顔で右手でコップを上に上げた。


「ほいー。」

 糸ノ瀬は、左手でコーラの入ったコップを上げた。

「ところであんさ、あんた男が好きなわけ?」

 蓮弥を向いて糸ノ瀬は、そう言った。


「俺は、どっちでもいけるんだぜ。へへ。」

 こいつにとっては、自慢らしい。


「へー。あーしそんな人と初めてあったかも。本当にいるんだ。」


 そんな会話をしていると、秋山がすっと立ち上がった。

「あのー俺はもういらないかなー。みんないい人そうだし…。」


「あんた、あーしのマネージャーなんだから!ここにいるの!」

 そう言って割りばしを糸ノ瀬が折ると、秋山はそっとまた座っていた。


「ところで、お二人は付き合ってるんすか?」

 蓮弥が核心かくしんをついてくる。


 二人は、顔を見合わし大笑いし始めた。

「昔ね、あーしは全然そんなことなかったけど、こいつが好きだなんてギャグ言うもんだから、一週間だけ付き合ったこともあったな。」


「いや、お前あの時まだ、清楚系だったじゃん。子供だったんだよ、俺ら。」


 清楚系?今の糸ノ瀬じゃ考えられんな。


「二人とも、相手はいないんすか?」


「俺は、今いないよ。」


「あーしは、今は全然考えられないかな。

 音楽がただ…楽し。」


 俺は、その言葉に唐突とうとつに涙があふれてきた。


 ここしばらく、忙しくて音楽とちゃんと向き合えていなかった気がする。


 自宅で曲を作っている時も、眠くて辛くて時間がなくて、そこで佐山が辞めて…。


「どうしたの?サウロ?」


「お前は、その名前で呼ぶんかい。」

 泣きながら、笑顔な俺を見て糸ノ瀬は引いていた。


「きしょ。」


 そのあとも、みんなで談笑して、お好み焼きを食べた。

 糸ノ瀬とは案外やっていけそうな気がした。

 オリジナル曲も渡したし、ニートらしいから覚えてくるだろう。

 俺は、そのあと秋山とも一応、連絡先を交換して親睦会は終わりを告げた。

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