第3話 必要な要素

 どうくつのなか薬草やくそうさがしてるうちにおもったんだが。


 ちいさい身体からだ案外あんがい便利べんりなのかもしれないぞ。


 もと身体からだじゃはいれないようなせま隙間すきまさきに、薬草やくそうしげってる空間くうかんがあったりするんだ。


 そりゃそうだよな。

 人間にんげん採集さいしゅうできるような場所ばしょなんて、あっという更地さらちになっちまうし。


 おまけに、そういう場所ばしょにはまって、ちいさくてあま一緒いっしょってたりするワケさ。


 そんなも、人間にんげんだったころささやかなたのしみぐらいにおもってたんだけど、いまとなっては御馳走ごちそうやまだぜ。


 やっぱり、胃袋いぶくろちいさくてなんぼだな。


「どうだ、あんたもべるか?」


 とってきた薬草やくそうつぶしながらそうたずねる。

 だれにって?

 そりゃ、あかかみ少女しょうじょいたにまってる。


「……」

「いらねぇなら、おれ全部ぜんぶっちまうけど」

「……へんなものじゃないでしょうね」

へんなものにえるのか?」


 もしかして、このあかべたことないのか?

 だとしたら、警戒けいかいしても仕方しかたないか。


 わないっていうなら、まぁおれべてもいいけどさ。

 ちょっと調子ちょうしってりすぎたんだよなぁ。


 ここは1つ、少女しょうじょにも消費しょうひしてもらいたいぜ。


「これはケイブベリーっていうで、ひとべても無害むがいなんだぜ? それに、あまくておいしいんだ」


 名前なまえかんしては、おれ見物する瞳スペクテイターるまでらなかったけどな。


あまい……」


 お、ちょっと興味きょうみいたらしい。

 視線しせんうと、とりつくろうようにらされたけど。

 こえのがさないぜ。


 薬草やくそうつぶめて、おれいくらかの少女しょうじょちかくにほうった。


「ちょっと! よごれるでしょ!」

かるはらえば大丈夫だいじょうぶだろ。もっとしいなら、あとは自分じぶんってくれよな」


 ころがるケイブベリーをあわててひろげた彼女かのじょは、ふーッといききかけたあとおそおそるそれをくちふくんだようだ。


「ぅ~~」

「どうだ? 美味うまいだろ?」

「そ、そうね」

「さて、それじゃあそろそろくすりほう出来上できあがったし、いためた場所ばしょせてくれ」

「それくらい自分でっ―――っぅぅ……」

「できないだろ。もしかして、ほねれてるとかわないよな?」


 もしそうなら、こんな薬草やくそうなんかじゃえないぜ?


 かり骨折こっせつなおそうとおもうなら、前時代ぜんじだい遺跡いせきあさって回復魔法かいふくまほう宿やどった魔導書まどうしょでもつけないとダメなはずだ。


 まぁ、前世ぜんせふくめてもおれたことないけどな。


「どっちにしてもこのくすり応急処置おうきゅうしょちをしないと、あんんたはたれぬだけだ。そんなのいやだろ?」

「っ……」


 ひそをひそめる少女しょうじょ

 おれにしても、彼女かのじょんでしまうのはけたいところだから、素直すなお治療ちりょうけてほしいところだぜ。


かった。でも、へんなことしたらつぶすからね」

安心あんしんしろ、そんなことをするつもりはない」


 もしへんなことをしたら、天罰てんばつくだされそうだしな。

 いいや、天罰てんばつやされるの間違まちがいか。


「ぅぅぅぅぅっ、ふぅ……はぁ……」

 にはれがってるくるぶしにくすりてると、少女しょうじょなみだかべて悶絶もんぜつする。


 その姿すがたてるだけで、からちからけそうになるぜ。


 でも、ちゃんと治療ちりょうしないとだからな。


 患部かんぶにあてたくすりおおきめのおおったおれは、準備じゅんびしてたツタで彼女かのじょあしごとくすりしばけた。


 これであとは、れがくまで安静あんせいにするだけだ。


「よし。あんまりあしうごかすなよ? れたらまたしばなおしだからな」

「……うん。かった」


 涙目なみだめではあるが、いたみにえながらもケイブベリーを頬張ほおばってるところをるに、この結構けっこう図太ずぶといかもしれねぇな。


 こういう図太ずぶとさは、この世界せかいくのに必要ひつよう要素ようそだとおもうぜ。

 回復かいふくには栄養えいよう必要ひつようだしな。


 これで治療ちりょうわりだし、一段落ひとだんらくいたはず。


 おつぎ情報収集じょうほうしゅうしゅううつるとしよう。

 よくかんがえなくても、おれいま状況じょうきょう理解りかいできてないんだよ。


「ところであんた、名前なまえとかあったりするのか?」

「……ある、けど」

「あるのか、ってことは、だれかと一緒いっしょ生活せいかつしたことがあるってことだよな?」


 この世界せかいにおいて、一人ひとりきてる人間にんげんめずらしくもなんともない。

 むしろ、ほとんどがひとりなんだ。


 でもたまに、偶然ぐうぜん出会であった人間にんげん行動こうどうともにすることもありる。


 そうやってひと行動こうどうしたことのあるヤツってのは、大体だいたい名前なまえってるもんなのさ。


「いつごろまでどんなやつ一緒いっしょごしてたんだ?」

「……それは、いたくない」

「そうか。まぁ、無理むりはないけどよ。わすれるな? あんたはそのを25つぶったんだぜ?」

「っ!? そ、それは」

あまいなぁ。まだまだだぜ? 警戒けいかいしてるようでつめあまいそのかんじ、おさなころからずいぶんながあいだ大人おとな一緒いっしょ行動こうどうしてただろ」

「なっ……」


 どうやら図星ずぼしみたいだな。


 かるぜ?

 てられたくやしさとおどろき、そしてかすかな恐怖心きょうふしんおれたいしていだいてるなぁ?


 その様子ようすだと、彼女かのじょ名付なづけたのはその大人おとなで、おそらくおや保護者ほごしゃみたいな関係かんけいだったんだろう。


 まるで、アイツをてるみたいだぜ。


 そういえば、おれをルースってめたのも、アイツだったっけか?

 いまはそんなことはどうでもいいか。


 これ以上いじょう彼女かのじょをいじめるのはやめてやろう。


「そんなに警戒けいかいするなよ。ただあれだ、会話かいわするにも名前なまえくらいはおしえてほしいだけなんだよ。一応いちおうおれ名乗なのってるしな?」

「……かった。わたし名前なまえはイザベラ。あなたは、ルースだったよね?」

おぼえててくれてうれしいぜ。よろしくな、イザベラ」

早速さっそくだけど、あなたはなんなの? 魔物まもの? 人間にんげん……じゃないよね?」

魔物まものじゃねぇよ。まぁ、人間にんげんでもないけどな。おれはな……えーっと」


 あれ?

 おれってなんなんだ?


 元人間もとにんげん、とはっちゃダメなんだよな?


 じゃあ、なんだ?

 前時代ぜんじだいにいたっていう、妖精ようせいとかか?


 妖精ようせいだとって、しんじてもらえるだろうか?

 いや、やめとこう。


 そういえば、自称神様じしょうかみさまってたあれはどうだ?


おれはだな、イザベラ、おまえのナビゲーターだ」

「ナビゲーター? なにそれ」

「つまりだな、おまえ手助てだすけけする味方みかたってことだ」

「どうして?」

「どうしてって、それは」


 自称神様じしょうかみさまからそうするようにわれたって、つたえていいのか?

 つたえちゃいけないことには、ふくまれてなかったよな?

 ちょっとにごしながら、つたえてみよう。


神様かみさまのおげで、イザベラがソヴリンをほろぼすのを手伝てつだうようにわれたんだよ」

「は?」


 だよなぁ~。

 おれがイザベラの立場たちばだったとしても、おな反応はんのうする自信じしんがあるぜ。


「もしかして、わたしだまそうとしてない?」

「もしそうなら、もっと上手うまうそくぜ? 残念ざんねんながら、ホントなんだよ」

しんじられない」

「まぁまぁ、そんなことわずに、ほら、ケイブベリーあまってるぞ?」

べるワケいでしょ」

「だよなぁ」


 なんか、いろいろと失敗しっぱいしたがするぜ。

 まぁ、気長きながつとしよう。

 どちらにしても、イザベラのあしなおるまではなにもできないし。


「まだおれのことをしんじられないっていう気持きもちは理解りかいできるぜ。だから、今一度いまいちどゆっくりかんがえてみてくれよ。そのあいだおれ食料しょくりょうでもあつめにってくるからよ」

「……」


 それだけのこして、おれ彼女かのじょもとはなれることにした。


 正直しょうじき、ギスギスした空気くうきえられねぇよ。


 もう一度いちど洞窟どうくつくだれば、またあのへんとびら出会であえるかも。

 そうすれば、イザベラとの仲直なかなおりをする方法ほうほう自称神様じしょうかみさまけるだろ。


 なんて希望きぼうをもってみたが、見事みごとくだかれたぜ。


 仕方しかたがない。

 こうなったら徹底的てっていてき洞窟どうくつ探索たんさくをすることにしよう。


 実際じっさいものあつめておいたほうがいいのは事実じじつだからな。


 ついでに、見物する瞳スペクテイター情報収集じょうほうしゅうしゅうもしておこう。


 あとなにかのやくつかもしれないからな。


 そうしてなおしたおれは、ふたた洞窟どうくつおくすすんだんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る