第2話 欠乏の文様

 渦巻うずまくモヤモヤがれることで姿すがたあらわおれ


 それってちょっとかっこいいかもしれねぇよな。


 なんておもってたおれは、視界しかいひらけると同時どうじ浮遊感ふゆうかんきしめて、顔面がんめんから地面じめんにぶへっ。


「ぐぅ……はなれたかもしれん。くぅぅ。いててて。お、れてはないか。かった」


 見上みあげると、渦巻うずまくモヤモヤがうっすらとえてくところだった。


 なんであんなたか位置いちほうしたんだよ。

 あの自称神様じしょうかみさまめ、これも天罰てんばつってうつもりか?


 ただでさえ身体からだちいさくなってんだから、やめてほしいもんだぜ。


めた。今度こんどったら絶対ぜったい文句もんくってやる」


 またえるのかどうかなんて、いまおれにしている余裕よゆうはないからな。


 そんなことよりいまは、もっとにするべきことがあるよな?


「んで、ここはどこなんだ? てっきり、少女しょうじょとやらにすぐえるとおもってたんだけどなぁ」


 まわりの様子ようす薄暗うすぐら洞窟どうくつなかってかんじだ。


 ホント、なんでこんな場所ばしょほうしたんだよ。

 もっとあかるい場所ばしょでよかっただろ。


文句もんくばっかりあふれてくるぜ。はぁ。とりあえず、すすむか」


 そうつぶやき、左右さゆうびている洞窟どうくつ交互こうご見比みくらべたおれは、右手みぎてびてる洞窟どうくつ岩陰いわかげに、ちいさな人影ひとかげつけたんだ。


「ん? もしかしてだれかいるのか!?」

「っ!?」


 あわてたのか、なにかをきずるようなおととともに人影ひとかげおくえてく。


「マズったなぁ。突然とつぜんあらわれたおれ警戒けいかいしてるっぽいぞ。まぁ、当然とうぜん反応はんのうではあるが」


 とはいえ、このままげられるのはよくないがするんだよな。

 れい少女しょうじょだった場合ばあいはやめに合流ごうりゅうしたほうがいいにまってるだろ?


「ちょっとってくれ! おれ名前なまえはルース。あやしいやつじゃないからはなしいてくれ」


 こんなことをいながらいかけてくる小人こびとたら、どうするだろう?

 おれなら躊躇ちゅうちょすることなくげるぜ。


「くそっ。歩幅ほはばちいさいから、すすんでる全然ぜんぜんしねぇよ」


 全力ぜんりょくはしってるのに、人影ひとかげかくれてたいわがまだまださきえる。

 おまけに洞窟どうくつすこしだけのぼざかだから、余計よけいとおかんじるぜ。


「はぁ、はぁ、はぁ、ちょっと、ってくれよ。マジで、はなしがしたいだけなんだよ」


 ようやくたどりいたいわ右手みぎていたおれは、がったいきととのえるためにひざいた。


 なさけねぇぜ。

 こんなことでほんとに、少女しょうじょみちびくことができるのか?


 どうせ、さっきの人影ひとかげにはげられちまってるだろうし……。


 そうおもって洞窟どうくつさきをやったおれは、おびえたひとみ少女しょうじょ視線しせんわしたんだ。


 右手みぎてこぶしくらいのいしにぎりしめ、左手ひだりてたおれこみそうなからだささえている少女しょうじょ


 どうやらあしいためているらしい。

 そのせいで、れてなかったんだな。


 特徴的とくちょうてきかみと、ととのった顔立かおだちの彼女かのじょ


 おもわず見惚みとれてたおれは、彼女かのじょいしげようとりかぶったのをて、われかえった。


「ちょっ!! ちょっとってくれって! そんないわげつけられたら、ぺちゃんこになっちまうって!」

「さっきから、なんなのよ、あなた……はぁ、はぁ、うっ」

「お、けよ。な? おれてきじゃないから」

「そんなこと、しんじられるわけっ!? くっぅぅ……」


 おれ反論はんろんしようとしてりきんだ拍子ひょうしに、あしいたんだみたいだ。

 よっぽどひどい怪我けがをしてるのか?


あしいためてるんだろ? ちょっとってろ。このへん使つかえる薬草やくそういかさがしてくるぜ」

「……」


 涙目なみだめ警戒けいかいしてる少女しょうじょ

 いまはゆっくりと会話かいわをしてる場合ばあいじゃないみたいだからな。


 彼女かのじょかせるためにも、おれ一旦いったんこのはなれたほうがよさそうだ。


 背後はいごからいわげつけられないか警戒けいかいしつつ、元来もときみちかえしたおれは、そのまままっすぐ洞窟どうくつすすむことにした。


 それにしても、移動いどう時間じかんがかかるのが課題かだいだよなぁ。


 どうせなら、そらべるようにしておいてもらえたららくだったのにな。


 そんなことをかんがえながらあるいてると、おれ全身ぜんしんきざまれてる文様もんようひかしたんだよ。


「なんだっ!?」


 むねおくからこみあげてくるねつまで、ぶりかえしてきたぜ。


 まえがグルグルしてきやがった。


 ダメだ、このままじゃ、あるけない。


 朦朧もうろうとするあたまでそんなことをかんがえつつ、まえのめりにたおれこんだそのとき


 おれはついさっきとおなじように顔面がんめん強打きょうだしたんだ。


 ただし、今回こんかい地面じめんにぶつけたわけじゃないぜ?

 いつのにかまえ出現しゅつげんしてたとびらに、ぶつかったんだよ。


「んだよ、これ」


 そういいつつ、いきおいよくとびらはなったおれまえひろがったのは、れいしろいモヤモヤ。


 なんか、いや予感よかんが―――


「また会いましたね、ルース」

「あんたかよ。なにがどうなってる? このとびらなんなんだ?」

「ひどいぐさだなぁ。まぁ、いいけど。それよりもルース。無事ぶじ彼女かのじょうことができたみたいですね。ご褒美ほうびとして、つぎなかからきなものを1つだけさずけてあげましょう」


 またへんなことをしたよ。

 でも、今回こんかいわるはなしだけってワケでもないみたいだ。


 その証拠しょうこだとでもいうように、モヤモヤのなかに3つ、見慣みなれないものが姿すがたあらわしてきた。


 はねつめ


「これはなんだ?」

「これは、あなたの身体からだきざまれた欠乏けつぼう文様もんようよ」

欠乏けつぼう文様もんよう?」

「そう。この文様もんよう宿やどすことで、あなたはナビゲーターとしてのちから発揮はっきできるようになるの」

意味いみわかんねぇよ」

いまはそれでいいのです。それで、どのちからのぞみますか?」


 そうった自称じしょう神様かみさまは、3つのちからについて説明せつめいしてくれた。


 はねは、おれ背中せなかつばさえて、ある程度ていど距離きょり滑空かっくうできるようになるらしい。


 は、おれえわたって、のぞんでいるものつけやすくなるらしい。


 つめは、おれ両手りょうてするどつめえてくるらしい。


 正直しょうじき全部ぜんぶよこせよ、といたいところだが。

 彼女かのじょがそんな要求ようきゅうんでくれるとはおもえないよな。


 となれば、移動手段いどうしゅだんになるはね一番いちばんしいところなんだけどなぁ。


 自称神様じしょうかみさまった言葉ことばに、すこしだけっかかるところがある。


「ナビゲーターとしてのちから発揮はっき、かぁ」

「そうですよ。はい、はやくえらんでくださいね」

かすなよ。それじゃあ、をもらうことにするよ」

だね。うんうん。かってきてるみたいでよかったですよ」


 なんか、おれのことをためしたってかんじなのか?

 やくつものをもらえるならかまわないが。


「それじゃあ、またおいしましょう」


 どこかうれしそうな声音こわねわかれの言葉ことばげた自称神様じしょうかみさま


 そうしてれていったモヤモヤからおれは、もと洞窟どうくつもどってたらしい。


 あたまもスッキリしてるし、体調たいちょうへんなところはない。

 1つわったことがあるとすれば、右腕みぎうで文様もんようあやしい黄色きいろひかりびてるくらいか。


「これが、欠乏けつぼう文様もんよう? ためしに使つかってみるか」


 ためすもなにも、使つかかたなんてなにからないんだけどな。


 ん?

 あれ?


「うげっ! 足元あしもとにあるの、いわじゃなくてオークのふんじゃねぇか!!」


 かおからまえのめりにたおれこんださきが、へんとびらでよかった。


 って、そんなことはどうでもいいんだよっ!


「そうか、これがナビゲーターとしてのちからなのか」


 視点してんわせたもの簡単かんたん説明せつめいが、文字もじとしてかびがってくる。


 おさなころから、ほんんでてよかったぜ。

 文字もじめなかったら、この能力のうりょく使つかものにならねぇからな。


 なにはともあれ、このちから使つかえばれい少女しょうじょあしなお方法ほうほうさがせそうだ。


 この洞窟どうくつなかに、薬草やくそうとかがえててくれればいいんだけど。


念入ねんいりに調しらべる必要ひつようがありそうだな。ついでに、地図ちずでもつくっとくか?」


 なんてな。

 このからだまれわるまえのノリで、そうつぶやいちまったよ。


 よくよくかんがえれば、一人ひとり地図ちずつくったりほんんだりすることも、むずかしくなっちまったんだなぁ。


 そうかんがえると、ちょっとさみしいぜ。


「そろそろこう。あんまりたせるのも、わるいだろうしな」


 なおして、洞窟どうくつのさらにおくすすむ。


 その道中どうちゅうおれ右腕みぎうで文様もんよう説明せつめいれることにいた。


 欠乏けつぼう文様もんよう見物する瞳スペクテイター


 なんだその名前なまえは。

 もしかして、あの自称神様じしょうかみさま趣味しゅみなのか?


 まぁいいか。

 使つかってみれば意外いがい便利べんりだしな。


 そうして俺は、使えそうな薬草を持てるだけ持って、例の少女の元に戻ることにした。


 ってっても、てるだけのりょうすくなすぎて、何往復なんおうふくもする必要ひつようがあるんだけどな。


 あぁ、もしかして選択せんたく間違まちがったかな。

 もうすでに、やりなおしたいぜ。

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