ドンゾコナビ ~天罰としてナビゲーターに転生させられました~

内村一樹

1章:焼き殺す者

第1話 ドンゾコの世界

 おれのことをルースってはじめたのは、だれだったっけ?


 もうおぼえてねーや。


 すくなくとも、10ねんくらいはだれにもってないワケだし、わすれててもしょうがないよな。


 くずれちまった天井てんじょうも、りかかってくる雨粒あまつぶも、んでった洗濯物せんたくもんも。

 もう、どうでもよくなっちまった。


 つい先日せんじつまで、あめったら歓喜かんきしてたのにな。


 ほんと、わらえるぜ。


 そんなことしても、たいしてきながらえることなんて出来できねぇのにな。

 っていうか、きながらえても、意味いみなんかないし。


 うもんもない、もん雨粒あまつぶだけ。

 当然とうぜんさむさをしのげるいえもない。


 なにもないいまなら、野垂のたにしても文句もんくわれないよな。


 はらいててぇ。

 空腹くうふくきわまればいたみになってくらしい。


 どうせなら、はやくくたばりたいもんだぜ。


 ……いつになったら、ねるんだ?


 なぁ神様かみさま

 どうでもいいから、はやくおれいのちをそっちにってってくれよ。


「そんなおねがいを、簡単かんたんくわけにはいきませんね」


 ……は?


 不意ふいこえてきたこえに、おれはそうつぶやきそうになった。


 まぁ、いまおれにはくちうごかす元気げんきもないからな。

 そうとおもってもこえなかったはずだぜ。


 おれがそんなことをかんがえてるあいだにも、つづこえこえてくる。


「とりあえず、たましい回収かいしゅうさせていただきますね。いのち無限むげんってわけじゃないんですから。あなたにはすこし、お手伝てつだいをしていただきましょう」

「は!? 手伝てつだいって……あれ?」


 なんでおれがそんなことを!

 っておうとしたんだけど、きゅううつわっていくまわりの景色けしきたりにして、おれ言葉ことばうしなっちまった。


 ついさっきまで廃墟はいきょなかよこたわってたはずなのに、けば、しろいモヤモヤにかこまれてるし。


 おまけに、半透明はんとうめい身体からだになっちまってる。


「っていうか!! すっぽんぽんじゃねぇか!!」


 くっ……。

 ガリガリでみすぼらしいおれ身体からだが、白日はくじつもとさらされちまったよ。


 さいわい、まわりにはだれもいないみたいだけど。


「もうすこじらいをったらどうなのです?」

「っ!? えてんのかよ! っていうか、どこにいるんだよ! 姿すがたあらわせ!」

残念ざんねんながら、わたしはそちらにおもむくことができないのです」


 そうこえは、ちいさく謝罪しゃざいべた。


 だれにもられてないとおもって、全身ぜんしん解放感かいほうかんあじわってしまってたぜ。


 こえかんじから、きっとおんなだな。

 だとすると、まえてこられるよりはいまのままのほうがいいな。


 てこられたら、かねーし。


「で? あんたはだれだよ? これはどういう状況じょうきょうなんだ?」

わたし神様かみさまですよ」

「ははは。そりゃおもしれー。で? ホントは何者なにものなんだ?」

本当ほんとう神様かみさまなのに。まぁいいです。どちらにしても天罰てんばつくだすつもりだったから、おのずと理解りかいしてくださることでしょう」

「ちょっとて、天罰てんばつ? なんでおれが、天罰てんばつけなくちゃいけないんだよ!」

「あなたはたしか、ルースというでしたね。ルース。あなたにはこれから、とある少女しょうじょのナビゲーターとしてまれわっていただきます」


 なにってんだ?

 っていうか、無視むしするなよ。


 そんな文句もんくの1つや2つを、全力ぜんりょくでぶつけてやりたいところだったんだけどな。


 おれあたまいたいことを整理せいりするよりまえに、いろんなことこりはじめたせいで、それどころじゃなくなっちまったんだよ。


 発生はっせいした異変いへん


 そのなかでも一番いちばんおおきな変化へんかは、おれ身体からだだな。


 半透明はんとうめいでフワフワした輪郭りんかくだった身体からだが、ギューッと凝縮ぎょうしゅくされてちいさくなっちまった。


 もと背丈せたけくらべて半分はんぶん……いいや、6ぶんの1くらいになっちまってるよ。


 あらたな身体からだおどいてるあいだにも、四肢ししへん文様もんようきざまれたり、あたま全然ぜんぜんらない知識ちしきながんできたり、むねうちからえがたいねつがってきたり。


 そりゃあもう、おれ完全かんぜん翻弄ほんろうされたね。


「どうなってんだ」

「これで準備じゅんび完了かんりょうです。それではルース。つぎの3てんきもめいじてください」

「は?」

「1つ、あなたがまれわった存在そんざいだということは、だれにもげてはなりません」

「なんでそんなこと―――」

「2つ、あなたはナビゲーターとしてこれから出会であ少女しょうじょみちびき、4大陸たいりく蹂躙じゅうりんした魔物まものソヴリンをほろぼさなくてはなりません」

ひとはなしけって」

「そして3つ。あなたならできると、わたししんじています。だから、あなたもあなた自身じしんのことをしんじてあげなくてはなりません」

「……」


 なんだよそれ。

 おれなにができるんだよ。


 おれ普通ふつう人間にんげんだぞ?


 前時代ぜんじだい存在そんざいしたっていう騎士きしとか魔法使まほうつかいとか勇者ゆうしゃとか。

 そんな存在そんざいじゃないんだぞ?


 過去かこ遺産いさんひろあつめていつなごうとしてた、しぶとい虫みたいなものだ。


 そんなおれ自称神様じしょうかみさまが、なに期待きたいしてるんだよ。


「さぁ、ルース。そろそろ時間じかんです。出発前しゅっぱつまえに、なに質問しつもんはありますか?」

「……やまほどあるぜ」

「1つだけにしてくださいね」


 ほんと、調子ちょうしのいい神様かみさまだ。

 それじゃあここはひとつ、一番いちばんになることをいておくとしよう。


「もし、おれがさっきの3つをやぶったら、どうなるんだ?」

「そのときは、さらにきびしいばつあたえるだけですよ」

「さらにきびしい……」

今回こんかい失敗しっぱいすれば、あなたのたましい再利用さいりようすることになりますので、弱体化じゃくたいか必須ひっすかんがえてください」


 再利用さいりようって……。

 そういえば、無限むげんじゃないとかってたっけか?


 クソッ。


 もう、はらくくってやるしかないのか。

 釈然しゃくぜんとしねぇが、けられそうにないもんな。


 そうしておれは、周囲しゅういくモヤモヤのうずゆだねたんだ。


 このときおれゆだねることができたのは、きっともう、これ以上いじょうのどんぞこがないとおもってたからだ。


 ところがどっこい、あったんだなぁ。


 さらにふかい、ドンゾコの世界せかいが。

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