第3話

「ただいま」


 春明が帰宅した。

 手には食材が入ったエコバッグが下げられている。


 今日は仕事で外に出ていたようで、恰好はビジネススーツだ。


「あ、おかえり」


 時刻が夜であるということもあってか、ラシオンは部屋の外に出る。


「今日は鍋な」


「は~い」


 春明はテキパキと準備をしていく。

 一人暮らし歴が長いだけあってかなり手慣れているようだ。

 

「春明くんって凄いね」


「両親が早くに亡くなったし、そもそも余り仕事で家に居なかったから。こういうのは上手くなった」


 会話はありつつも互いの目は合わない。


「それにお金もしっかりと稼いでてさ……」


「報酬に見合った仕事をしてるつもりだ。今まで陽の当らなかった奴等に光を当てて、一端のステージへと押し上げる。奴等は皆、もう俺よりも稼いでるだろうよ」


 何でもない風に春明は語る。

 ラシオンは彼がどういう仕事をしているのかを知らない。

 彼自身積極的に話そうとはしないし、ラシオンも深くは聞かないからだ。


 何よりも二人共、そういう話は余り好きではない。


「ほら、出来たぞ」


 湯気と共に漂ってくる出汁の香り。

 互いに向かい合って卓に着き、箸を伸ばす。

 野菜や肉に染み込んだ優しい味わいが二人の心身を溶かしていく。


「……なあ、ゲームしないか?」


「え?」


 食べ終わり、部屋に戻ろうとしたラシオンを、春明が引き留めた。


「この前お前がやってたゲーム、久々に俺もやりたくてさ」


 言いながら春明はソフトを見せる。

 それは日本人なら誰もが知る国民的キャラクターが車に乗っているイラストが描かれている。


「何で、オンライン対戦とかあるでしょ……?」


「良いだろ別に。こういうのは本来近くの、生身の人間とのコミュニケーションツールなんだからよ」


 ラシオンは困惑する。それは春明を嫌っているからではない。


「良いの? その、私なんかとやっても」


「……良いんだよ」


 目線を下げて春明は答える。


 歯を磨き、シャワーを浴びて、寝間着姿で隣同士、二人は座る。


 ボックスからアイテムを取り、抜かし抜かされ、競い合う。

 

「春明くんが使うのってゲジュムなんだ」


「おう」


「何で?」


「カッコイイから」


「……変わってる~。私は……ホイヘーかな」


「お前も似たようなもんじゃん」


 勝敗に一喜一憂し、娯楽は映画へと移行する。

 二人の手には酒缶が握られていた。


「お前のチョイスなんか暗いのばっかだな」


「そ? じゃあ春明くんのチョイスは?」


「俺はやっぱこういう系のバディ物とか……」


 緩やかに、穏やかに時間が過ぎていく。

 気がつけば、二人がその場で無防備に寝てしまっていた。

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