第1話
日本という国は素晴らしい。
まず、物の質が良い。ただ良いだけではなく、それらが比較的安く手に入る。
それだけでなく街が良い。平和であるということもあるだろうが、それにしても美しく整備・掃除されている。
そして、何よりも人が良い。
ラシオンは白米と甘辛く味付けされた豚肉を同時に口に含み、しみじみとそう感じていた。
「うまいか?」
「はい、とても」
ラシオンは目の前に座っている少年の言葉に笑顔で頷く。
名前は
日本人らしい黒髪の中に少しだけ朱色が混じっている彼はラシオンのその言葉を聞き、安堵したように胸を撫でおろす。
「そっか、そりゃよかった。他人に飯作るのなんてほとんど無かったから不安でさ」
「いや、そんな……。家に泊めてもらってるだけでも十分だしね……」
日本に放り出されて暫く経った時。
冬の季節に雨が降っているという二重苦に襲われていたその日に、春明とラシオンは出会った。
あれは互いにとって、決して忘れられない出会いだろう。
「ウチでの生活には慣れたか?」
「うん、おかげさまでどうにか。看病までしてくれて、本当にありがとうね。ホントに野垂れ死んでいたかもしれなかったよ」
「良いよ、そのくらい別に」
右も左もわからず、流されるままに苦しんできたラシオンを、春明は何も言わずに家へと連れて帰った。
そしてそのまま寝床と食事を用意して世話を焼き続け、結果としてラシオンは立派な引きこもりへと進化を遂げたという訳である。
食事が終わり、春明が食器を片付けている様子を尻目にラシオンはあてがわれた部屋に戻る。
そして中に置かれているアルミ缶を開き、中身を喉へと流し込む。
「プハァ~~~~。やっぱしストロングは最っ高~~~~~!」
透き抜けるような炭酸とレモンの爽やかな香り。
そして全身に広がる、激しくも程良い酩酊感。
ラシオンが日本で最も気に入っているのがお酒だ。
高級な素材を使ったワイン等とはまた違った、それでいて強い心地良さを得られるこれらは本当に素晴らしいと断言出来るものだった。
一缶を飲み切るのもあっという間。
それだけでラシオンの服装は乱れ、呂律が弱り、言葉遣いも粉砕されていく。
とても王女に相応しいものとは言えないが、今の彼女にはさしたる問題ではない。
何故ならここは狭い部屋の中。
遮光カーテンによって密閉されたこの場所ではメイドに見られることも、時折謁見に来る貴族に出会う心配もない。
何を気にする必要もなく、幾らでも気を抜いていい場所。
それが今のラシオン・アウロールの世界の全てである。
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