ワンルーム・プリンセス
甘党からし
プロローグ
とある世界。
我々の暮らしている
日本は愚か地球と比較しても大きく異なっているその世界、アウロール王国は今、危機に瀕していた。
「くッ…………!」
第一王女である『ラシオン・アウロール』は高密度の魔力を帯びた剣を構え、目の前の怪物を睨みつける。
漆黒の翼に鋭い牙。頭には妖しい輝きを放つ宝石をあしらった王冠を被るその者の名は、魔王。
帝国、そして世界は正に今、魔王軍の侵略を受けている状態だった。
「あなただけは許さない……! 絶対に……!」
ラシオンの顔は憤怒に染まっている。
周囲では花や装飾品が燃えており、この場で何らかの催しがあったことが見て取れる。
「ククク……。まあそう言うな。礼節と形式ばかりで面白みの欠片も無い催しに華を添えてやろうと思っただけだ。どうだ、明るく、にぎやかになったのではないか?」
「……ええおかげさまで、国中大混乱です」
肩につけられた大きな傷を抑えつつも、魔王は嗤う。
傷をつけられたことに驚愕はあれど怒りは無い。
虐殺と戦場こそを誉とする彼にとっては、強敵と相まみえたことに対する喜びはあっても傷によってプライドを損なうことは無いのだ。
「だからこそここで終わりにします。あなたを倒し、魔族を屠り、今ここで大陸の平和を取り戻す!」
「クククッ、クアハハハハハハ! 言わされた理想を語る英雄程、滑稽なものも無いが……。良いだろう、来い!」
光を纏った聖剣と闇の具現が衝突する。
相反する二つの属性が混ざり、ぶつかり、その衝撃は周囲の物物だけではなく、空間すらも歪ませる。
結果として王宮の半分が消し飛び、そして。
「ハハハハハハ!!!!!!」
爆発の中心で、唯一魔王だけが立っていた。
ラシオンが肌身離さず持っていた押し花の栞を踏みつけ、魔王は高らかに嗤う。
希代の神童と謳われ、神話でのみ語られる勇者の生まれ変わりとも信じられていた第一王女、ラシオン・アウロール。
たった今、彼女の敗北が決した瞬間であった。
その後、世界中の国家が共同し、魔王軍は殲滅されることになる。
余りにも大きな喪失を乗り越え、彼らは真の意味で一つとなり、新たなる国家が誕生することとなった。
決して楽なことばかりではなかったが、それでも大きな平和をつかみ取った物語。
異世界の物語はこれでお終い。
しかし、ラシオン・アウロールの物語は終わっていない。
彼女は何と生きていた。
異世界の日本という国に転移し、一人の親切な人間に拾われ。
今。
「あ〝~~~。やってらんねぇですよねぇ、マジでよぉ~」
酒とつまみをそれぞれに、小さな部屋に引きこもっていた。
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