第三話 六本木の憂鬱
神宮外苑の街路樹を右手に見て、2人のオープンカーは今日もエンジン音を響かせていた。週末は都心のオフィス街を走っている。コロンとピーナは相変わらず気分爽快だ。
「最高の気分ね 幸せだわ!」
コーナリングの時は結構なGが来るけど、
それは それで良い。
青山通りを抜け六本木交差点に差し掛かった時、
ピーナは良からぬ周波数が出ているのを感じた。
「この辺あまり良く無いわ」
コロンも同じ感情を持っていた。
確かに締め付けられるような波動が定期的に出ている。
「ここは…」
「昔、何かあったかもしれない」
生き物の出す周波数は、時が経っても何故か残っている。怨念などがその類いだ。磁場とは良く言ったものだ。残像を消す事は容易く無い。建物や土砂が取り除かれようと、川を埋めようと、火事を起こして証拠隠滅を図ろうと、そこに漂う妖気、目に見えない怨念の空気は消える事は無い。そう言うものだ。
一瞬コロンの心の中に、大勢の兵隊さんが行進している映像が出てきた。
「一体何なのだ!」
非常に重い空気が漂っている。雨の中、全身ずぶ濡れの隊列は赤坂方面に向かっていた。銃剣が重そうに肩に食い込んでいる。顔はよく見えないけど生気を失った蝋人形のようだった。
「誰も心の中は穏やかで無いな」
この六本木あたりでは、あまりいい波動は感じられなかった。兵隊さんの無念の波動が未だに残っている。そして戦後、東京の疎開地になった時、ここは正反対の世界になったようだ。酒や持ち込まれた数々の歓楽の道具によって堕落していった無念の場所。
時は流れてそれを知る人は少ない。
多くの外国人の姿が狭い路地に溢れる。地形は変わらないが、道が整理されて、建物がところ狭しと立ち並べば、人々の記憶からかき消される。
「好き好んで戦争をする人なんて
〜いないよなぁ」
何か目的を持って優位に立ちたいと思う存在がいないと、
調和ってそんなに簡単に壊れるものでは無いんだけどな〜
そう心の中でコロンは思っていた。
「誰かが仲違いさせたの?」
ピーナも反応していた。
「たぶんね」
風は気持ちよかったが、どことなく空気が重いエリアは息苦しいものだな。二人は少しだけ厳しい顔になっていたが、気持ちを切り替えて飯倉方面に下って行った。
…溜池から議事堂まではあっという間だった…
車のエンジン音は低くて躍動感を感じる。
〜ブロ〜ブロロォ♪〜
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