P011 神戸港の夜景が見えるポートアイランドのカフェで高城という男性と

 神戸港の夜景が見えるポートアイランドのカフェで高城たかぎという男性とお茶を飲んだ。東京在住で二十八歳のカメラマン。


 店を指定したのは朝希子だ。ポートアイランドは神戸港に浮かぶ人工島だから、本土側にいる柊と少しでも離れられると思って選んだ。だが今いる場所の向こう岸に彼がいると思うと、逆に強く意識してしまうから不思議だ。


 紹介はクラスメートの華代に頼んだ。


「あの関学生と破局したんや? やっぱ三人で一人の男と付き合うなんて無理やと思ったわ〜」


 冷笑しながら高城の画像を見せようとしてくるので、「ううん、逆。上手く付き合っていくための調整弁が必要になって」と答えると目を丸くしていた。


「見て、イケメンやろ。これで撮る方やねんて」


 くっきりした目鼻立ちに垢抜けたファッション。顔が広い華代には読モをやっている友人がいて、高城とはその伝手で知り合ったらしい。

 

「見た目はいいけど、うちも一回しか会ったことないから。どんな男かはわからんで。どうする?」


 華代に問われて、朝希子は迷わず会うことにした。

 誰でもいいから柊への気持ちを分散させたい。じゃないと暴発してしまうと恐れた。


「聞いてた?」


 高城の野太い声が耳に突き刺さり、朝希子は慌ててうなずきながら紅茶のカップに口をつけた。


「派手でね、土地柄かなあ」


 きょう撮影した名古屋のモデルの話をしているらしい。疲労感を漂わせた表情であごひげを触りながら、有名人の名前を出し、その子を撮影した時はああだったのになあ、などと暴露話をしてくる。


 朝希子は懸命にヒアリングしようと努めたが、意識が遠のいていくのを止められなかった。柊以外の男性が発する言葉というだけで興味が持てない。それこそ下手なカメラマンが撮った写真みたいに、頭の中がぼやっとしている。会ったのは失敗かもしれないと後悔した。


「そっか。朝希子は女子校に通ってるのかあ。何年生だっけ」

「三年です」


 馴れ馴れしく呼び捨てにされながら高城の標準語を聞いていると、帰りたいという思いが強まった。


「卒業したら、どうするの。上京すんの」

「付属の女子大に進む予定ですけど」

「就職は? 地元?」


 それはお兄ちゃん次第だと言いかけて朝希子はうつむいた。


 もし三姉妹での〈結婚〉が実現したら、彼の就職先がある土地に全員で引っ越すつもりでいた。


 だが、そんなにうまくいくのだろうか……、と朝希子は悩みはじめている。自分が信じられなくなっていた。


 朝希子は先週、妹たちを裏切ってしまった。

 柊の部屋で、彼とキスをしてしまったのだ。

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