P011 神戸港の夜景が見えるポートアイランドのカフェで高城という男性と
神戸港の夜景が見えるポートアイランドのカフェで
店を指定したのは朝希子だ。ポートアイランドは神戸港に浮かぶ人工島だから、本土側にいる柊と少しでも離れられると思って選んだ。だが今いる場所の向こう岸に彼がいると思うと、逆に強く意識してしまうから不思議だ。
紹介はクラスメートの華代に頼んだ。
「あの関学生と破局したんや? やっぱ三人で一人の男と付き合うなんて無理やと思ったわ〜」
冷笑しながら高城の画像を見せようとしてくるので、「ううん、逆。上手く付き合っていくための調整弁が必要になって」と答えると目を丸くしていた。
「見て、イケメンやろ。これで撮る方やねんて」
くっきりした目鼻立ちに垢抜けたファッション。顔が広い華代には読モをやっている友人がいて、高城とはその伝手で知り合ったらしい。
「見た目はいいけど、うちも一回しか会ったことないから。どんな男かはわからんで。どうする?」
華代に問われて、朝希子は迷わず会うことにした。
誰でもいいから柊への気持ちを分散させたい。じゃないと暴発してしまうと恐れた。
「聞いてた?」
高城の野太い声が耳に突き刺さり、朝希子は慌ててうなずきながら紅茶のカップに口をつけた。
「派手でね、土地柄かなあ」
きょう撮影した名古屋のモデルの話をしているらしい。疲労感を漂わせた表情であごひげを触りながら、有名人の名前を出し、その子を撮影した時はああだったのになあ、などと暴露話をしてくる。
朝希子は懸命にヒアリングしようと努めたが、意識が遠のいていくのを止められなかった。柊以外の男性が発する言葉というだけで興味が持てない。それこそ下手なカメラマンが撮った写真みたいに、頭の中がぼやっとしている。会ったのは失敗かもしれないと後悔した。
「そっか。朝希子は女子校に通ってるのかあ。何年生だっけ」
「三年です」
馴れ馴れしく呼び捨てにされながら高城の標準語を聞いていると、帰りたいという思いが強まった。
「卒業したら、どうするの。上京すんの」
「付属の女子大に進む予定ですけど」
「就職は? 地元?」
それはお兄ちゃん次第だと言いかけて朝希子はうつむいた。
もし三姉妹での〈結婚〉が実現したら、彼の就職先がある土地に全員で引っ越すつもりでいた。
だが、そんなにうまくいくのだろうか……、と朝希子は悩みはじめている。自分が信じられなくなっていた。
朝希子は先週、妹たちを裏切ってしまった。
柊の部屋で、彼とキスをしてしまったのだ。
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