P007 次女のまひるとはまだ分かりあえる部分が多かった。顔は米俵のようだが

 次女のまひるとはまだ分かりあえる部分が多かった。顔は米俵のようだが、思慮深いところが自分と似ていると朝希子は常々思っている。


「そう言えば、まひるちゃん。さっき学校で呼んだんやで?」朝希子は斜め後ろにぬぼっと立っていた次女を振り返った。


「……聞こえんかった」


 覇気のない声にいらっとして小声で叱る。


「ぼうっとしとったんやろ。呼ばれたらすぐ来なさい!」


 まひるはいつもとろいのだ。夜乃のように柊を見つけた瞬間、脊髄反射でぴょんと飛び跳ねるのとは違い、一テンポも二テンポも遅れる。行動を起こそうかどうか熟考しているようだ。そういう慎重なところも自分と似ていると思う。


 しかし朝希子は見てしまった。

 大胆なまひるを――。


 まひるが朝希子になりきって「お兄ちゃん〜」と彼にまとわりついている姿を。


「鏡が動いとうみたいで、気色悪い」


 自分のものまねをしてまで柊に近づこうとする次女の必死さに朝希子は震えた。


 まひるが着ていたワンピースは、薄紅色の花柄が全面に散りウエストに大きなリボンのついた朝希子お気に入りの一着だ。普段、蛙みたいな色のジャージばかり着ているまひるには手に負えなかったのだろう。着こなせておらず、メイクも下手で全然似合っていなかった。


 冷静なまひるらしくない振る舞いに朝希子は首を傾げ、夜乃のせいでペースを乱したのかと同情した。


 わたしとまひるは夜乃の犠牲者……。そんな言葉まで頭に浮かぶ。


 まひるを置き去りにしてはならない。長女として気を配ってやらないと、と朝希子は改めて決意したのだ。



「朝希ちゃん? どこ」


 ソファに横たわっていた夜乃が、青ざめた顔のままこちらに手を伸ばしていた。長いまつ毛の先がふるふると波打つのが見えて、朝希子は我に返った。


「朝希ちゃん、お姉ちゃん」


 都合のいい時だけ姉と呼んで甘えてくる。弱々しく倒れ込んだポーズのまま、家族に見つめられながら、なぜか朝希子のほうに。


「どしたん。大丈夫か?」


 仮病だとわかっていても、咄嗟に手をとってしまう可愛さが末っ子にはあった。いつもは怪獣のように粗暴な性格なのに、今は荒い息をはあはあと吐いて引っかいてくる爪も弱々しい。この子は自分がいないと生きられないのではないか、そう思わせる儚さがある。


 夜乃の手をとって近づくと、ミルクの匂いがした。


 こういう時、自分でも末っ子を愛しているのか、そうでないのかがわからず朝希子は混乱してくる。

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