P004 しかし誰もが具体的に「落とした」経験がないため、マンガやドラマで見聞きしたことを
しかし誰もが具体的に「落とした」経験がないため、マンガやドラマで見聞きしたことを報告するだけで行き詰まり、ついには三人同時に知恵熱で寝込んでしまった。
柊が高校を卒業する頃には将来の旦那さん候補に挙がるのは必然だった。
「もう身長伸びんとってほしいわ。これ以上、目立たんとってほしい」
「今どのくらい」
「一七六やて」
ふう、とまひるが額に手を当ててため息をついた。
「大学生になってから、髪型とか服もやばいな。きょう着とったのもブランドもんや」
目をぎらつかせながら夜乃が唾を飛ばすと、「ええっ。あのビッグカメラの紙袋みたいな柄が。そうか……」ファッションに無頓着なまひるが顔色を失ったままがっくりと頭を垂れた。
「どんどん光ってきとうなあ。他の女の子に取られたらどないする?」
三姉妹はやきもきしていた。
特に妹たちが思いつめて、「危険水域や。誰の目にも届かんところに閉じ込めておこうか……」と物騒なことをつぶやきはじめたので、暴走を危惧した朝希子は柊に直接約束をとりつけにいくことを提案した。
「お兄ちゃん、結婚するならこのうちの誰としてくれる?」
息巻いて隣家に乗り込んだが、返答は意外なものだった。
「さあ、みんなのことが大好きだから選べないかな」
大好き、と初めて言われてまひると夜乃は「えへへ」と照れていたが、朝希子だけはショックを受けていた。
本当は誰のことも好きじゃない。そう聞こえたのだ。
悲しさで落ち込みそうになっていた時、朝希子は自分に向けられた視線に気づいてしまった。柊だった。
彼が、こう言うしかないよね、と自分にだけ合図を送るように目配せしていたのだ。
あの目尻の丸まった愛らしい瞳で、妹たちの手前、にこっと微笑みながらうなずいてきた。
「一人は選べないから、みんなとしようかな」
冗談めかして言いながらも、朝希子にだけは共犯者のような笑みを向けてくる。
「ええな! みんなで住んだら楽しいで」大はしゃぎする末っ子のそばで、朝希子は彼の視線に射抜かれて動けなくなった。
「じゃあ、うちらが大学卒業したら〈結婚〉な。約束やでっ」
「女子大生になったら〈婚約〉パーティーしようね。それまでは抜け駆けのお付き合いは禁止ね」
まひるも夜乃と一緒になって柊を取り囲みながら顔を上気させている。
「わかった。楽しみにしてるよ」
柊に見つめられながら、背後ではしゃぐ夜乃たちの声が遠ざかっていった。
朝希子の胸だけが、うるさいほど音をたてている。
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